懲りずにIN進撃パロ/


訓練兵として日々訓練や勉学に追われる日々。
…といっても、周囲の人間と比べて、キャパシティから処理能力に至るまでそれを遥かに凌駕してるイドルにとっては取るに足らないことばかりではあった。
だがやる気がないと言わんばかりの態度に、落第ギリギリの成績を叩き出し続けている彼に同期の者たちは些か不満そうな表情を見せていた。
滑稽なことだろう。
未だ、誰一人としてイドルという男の本性も性質も理解していないというのは。
だからこそいつもいつも、にたにたと嫌な笑いを浮かべるか、そうでなければ至極つまらないというような顔しか見せないのだ。
良くも悪くも、素直なのだろう。
(もっとも、それさえ作り物の可能性もあるが)


かちゃかちゃと何かをいじる音がする。
同室の男が机に向かって真剣に何かをやっているイドルというのを見たのはこれが初めてだった。
そろりと何をやっているのかを覗き見れば、その手元では器用にドライバーやネジ、ほかにもいくつかの工具がくるくると機械を弄んでいた。
どこか見覚えのある機械は、間違いなく立体機動装置の部品だった。

「イドル、それ…」
「あぁ?関係ねーだろ。とっとと寝ろ」
「いや、寝ない。お前、立体機動装置なんてもんいじってどうすんだ!?」
「うるせぇな…改良だ改良。」
「改良!?何を馬鹿なことを言ってるんだ…大体その装置自体、機工部のブラックボックスとまで言われてるのに、それを改良!?イドル、悪いことは言わない。お前の成績を考えても、お前にそんな無茶なことはできるはずがない!今すぐやめ…」

やめろ、と言おうとしたところで彼は口を噤むしかなかった。
頬の真横をすり抜けて、何かが後ろの壁に突き刺さる。
視線だけで確認すれば今しがたイドルが手にしていたドライバーだった。
ゆっくりとイドルへと視線を戻す。暗がりにランプだけの心細い明かりの中、出来損ないの同室の男がゾッとするような、おぞましい何かに見える気がした。
ゆったりとした動作で眼前まで迫ったイドルの目はいつもと同じようで違う、貪婪とした色をしているように見えなくもない。その口元は一文字に結ばれていたが、やがて裂けるようにして弧を描いた。

「この程度の物がブラックボックス?この壁内の技術力も高が知れる。」

一年ほど共に過ごしているというのに、その声音も語口調も聞いたことがないもので、尚更目の前の見たことのあるはずの男が別の誰か、いや、別の何かに感じる。得体がしれない。一体、これは、誰で、なんなのかと、その目から逃れることもできず。

「君も大概、馬鹿だなァ。壁内の奴らっていうのは、みぃんな平和ボケしてるのかい」

あぁ、でも、ヘイセイよりはまだまだきりっとしてるか。と、聞きなれない単語を呟きながらけたけたと笑い声を上げる。緩慢とした動きで投げつけたドライバーを回収し、なにを思ったのかその先を突きつけた。
目に触れそうなほどの距離でそれを向けられ、ぎくりと体をこわばらせる。
その様子さえも面白いとばかりにそれは笑った。

「二度と知ったような口をきくなよ、愚鈍で凡庸な人間風情が」

そこまで怒るなら普段からそれらしく振舞ってくれ、と冷や汗を流し頷きながら彼は心の中で愚痴をこぼした。対するイドルはその様子に満足そうに頷いて、先ほどとはまるで違う軽快そうな足取りで机へと戻り、再び機械いじりへと没頭していったのだった。






不幸なことに次の日は実習訓練があった。

「軽量に速度強化もできたけど…こいつ…癖っぽいなァ…」

先日組み上げたジャンクの動作確認も兼ねて、その日はのんびりと訓練に挑む。(まるで普段はきっちりやってるように聞こえるが、いつものんびりとしかやってないというのは言うまでもない)
途中、近くにいた訓練兵が無様に落下していったのが見えた。素早く教官がそれを回収し、ちょうどイドルと目があった。招集の合図。舌打ちをしながら教官のもとへと降り立った。

「デュー、貴様の立体機動装置を貸してやれ。やる気もないだろう?」
「……」

降り立って早々のこと。どうやら無様に落下していった男の立体機動装置が不調をきたしているらしい。どうせやる気もないと見抜かれていて、これが普段であったなら大手を振って自信の立体機動装置を献上する勢いで渡していただろう。だがしかし、今日ばかりは些か都合が悪い。返事もせずにどうするかと黙りこくっていれば、ばしりと頭を叩かれた。

「返事はどうした」
「…うぃっす」

もう一度叩かれる。自分には他の訓練兵の倍くらい、この教官は厳しい気がする。
訓練兵の手を引き、少しばかり教官と距離をとり、渋々とつけていた”ジャンク”を貸しながら、耳打ちする。

「おい」
「な、なんだよ」
「よく聞け。この装置はほかのと違う。頼むから死ぬなよ。」
「は?何言ってんだ」
「忠告はしたからな」

その後、あの訓練兵が散々な目にあったのは言うまでもなかろう。







「デュー、説明くらいはできるのだろうな」
「なんのだよ」
「敬語を使え敬語を。あの立体機動装置についてだ。貴様が使っていた時もややぎこちなかったが、ファレノプシスが使ってから如実すぎるほどだった。アレは一体どうなってる。」

だからうまくやってくれと言ったのに、と教官の目の前であるのも気にせずため息混じりに愚痴を零す。訝しむ目線も気にせず、「ジャンクちゃん」とふざけ半分に答えを述べた。は?と聞き返してきた教官につらつらとイドルがかたる。

「倉庫の片隅に置き去りにされて寂しがってたから拾った。かと言ってあのままじゃ使えねぇなーと思って、適当に修理がてら俺様なりに改良したのがジャンクちゃん。ご覧になったとおり、本体そのものの軽量化、部分的な強度アップ。それと、アンカーの巻き取り速度と射出速度も微妙に上げてある。まぁ、これはまだまだ上げれるだろうけど、あんまり早くなりすぎたら振り回されるから調整中。あと巻き取る力が強くなった弊害でバランスとりにくくなってるからその改良はまた今度のつもりだった。なんも怒られるような規定違反してないと思うけど?」
「安心しろ、貴様は存在自体が追放ものだ。」
「そりゃどうも。」

それ以来、イドルの装置を誰かに貸すように指示が下ることはなくなったという。





***
技術班行ったほうがいいんじゃないのという

mae//tugi
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