「ねーぇー!きうおっとー!あそぼー!」
「今忙しいのよぉ」
「うそつきぃー!」

どうしてこんな餓鬼を引き受けてしまったんだろうか。
引き受けたいわけが無いというのに、
つい引き受けてしまったというのが正しいところか。



樹木神と天狗が二人、久しぶりに会って話し込んでいたときだった。縄張りとしていた山を配下に任せて山を去ってから数百年と数十年ほど経過したころだったろうか。喜烏は違う山へと引っ越してそこで暮らしていた。生活の内容やら日課やらは何処へ行っても変わらなかったが。ふと思い出したように、実家とでもいうべきこの山に帰ってきた。理由は特にはなかった。霊体のような姿をただの樹だった樹木神がとれるようになっていたことを知って、喜烏が珍しく目を丸くしたりと笑いながら酒を酌み交わしていたときだ。思い出したように樹木神が眷属に何かを指示したのだ。

「こいつぉなぁ、お前に見せておきたかったぁ」

眷属が持ってきたのは布に包まれたなにか、だった。いや、なにかというよりは誰か、というべきか。その布に包まれていたのは人のような姿をした子供だった。ような、というのはその頭にひょっこりと樹の芽のようなものが生えているのが見えたからだろう。

「え?なにこのチビ」
「下のぉ村の墓場を知ってるなあ」
「墓場って言ったら、ぶっちゃけこの山でしょぉ?」
「そうだぁ」

この山の麓に村は村人が死んだらこの山へとその亡骸を埋める。それはいつからかずっと続く村の風習だった。自然に還すのか、死体でも貢いでいるつもりなのか、ただ単に村に埋めるほどの余剰がなかったからか、どういった理由でそうなったのかは分からない。ただ、ずっと前から、山奥へと死体を生めるのが慣わしだった。それは当然、この地に住んで長い喜烏も知っていることだった。

「墓場にぃ生まれたぁ」
「このチビがぁ?」

訝しげにその子供を喜烏は見る。寝息を立てて寝ている様子は少々腹立たしいようにも思えた。ちらりと樹木神へ目をやって、それで、と聞き返そうとしたときに喜烏の第六感は少々嫌な予感を感じ取ってしまった。あ、ちょっと嫌な予感するからパス。…なんていう暇もなく、樹木神は嫌な笑顔を浮かべて続ける。

「あいつの墓の上に、いたんだぁ」
「…そういうことぉ…」

あいつ、といえば喜烏にとって思い出される人間はただ一人。ひくりと疼いた顔の傷。その傷をつけた張本人。喜烏の犬猿の仲とも言える相手であり、喜烏が人間で唯一亡くしたことが惜しんだ、女のことだ。確かによくよくみればその髪質や顔つきの特徴はその女にそっくりに見えた。

「そいつはアイツなの?」
「いいやぁ、別人だぁ」
「っちゅーことは…」

その少女は女とは違う、ときっぱりと樹木神は言い切った。恐らく拾ってから大分時間がたっているであろうことは見て取れる。しかし、どこか女に似ている。無関係とは言い切れない。ともすれば、可能性はタダひとつ。

「その子、お前さんらの仲間っていうよりは俺らの仲間に近いのね」
「そういうことだぁ。死体の骨でも食ったんだろうなぁ」
「形だけ、ってこと…ふぅん」

その子供は恐らく…この山に古くから住むこの樹木神の力を引継ぎながら、同時に天狗の気に当てられてしまったはぐれもの、のような何か、だろう。そして当てられた気が一番執心していた人間のその魂か、はたまた血肉か…それに等しいものを取り込み、形を成した。そういう、妖怪のようなものなのだろう。憎たらしいほど幸せそうに寝ているそいつの頭を喜烏はなにとなく小突いた。

「…僅かに魂も喰ってんな、こいつ」
「肉体に残っていた分だろうなぁ」
「部分的にアイツって感じねぇ、鬱陶しい」
「そういうなぁ」

面影がありつつも、まったくの別人だというこの少女は、いうなればこの山の主たちの子とも言えるのだろう。ため息をつきながら、最終的に喜烏はこの子供を引き取ることになってしまうのだ。理由?それは当然…樹木神がめんどくさがったから、に決まっている。子供を育てられるほどの能力は樹木神たちにはなかった。とはいえ、喜烏のようは破綻者も同様であることは自分たちが楽になれるという事実を優先した樹木神らは棚の上に上げてしまったが。



にじゅうよじかん
おはようからおやすみまで



父と呼ぶな。名も呼ぶな。やれやれ鬱陶しい。
などといいながらもその頬が緩んでいることを誰も指摘しない。




喜烏と樹木神と、それから君と。

mae//tugi
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