一族の集まる間で長々と話し合いは続いたが、いつも通りに平行線のままだった。
すでに時間は丑三つ時。身動ぎひとつでさえもできぬほどの緊迫感が続き、その場のおそらく誰もが疲労の色を見せていた。
……いや、訂正。上座の方にいる長たちはまったくもっていつも通りだった。
議題など知ったことかと言わんばかりで、これもまた下座の面々の顔色を悪くする原因に違いなかった。
彼らがその話を終えない限り、我々は席を外すことさえ許されない。
かと言って、余計な口を挟むことも許されてはおらず、そもそも、万が一機嫌を損ねればと思えば口を挟むという考え自体あまり考えたくはない。
終わらないかなと期待をこめて目を向けると、三者三様に座り直してはその手に酒を持っていることに気がついてしまった。
これは……話が終わらないどころか下手をすれば夜が明けるかもしれない。

「目出度い話じゃねぇか。しっかし早いもんだな…この間婚礼と思えばもう孫とは。」
「えぇ、えぇ。これで神代も朱池もよほどでない限りは安泰といったところでしょうかね。」
「…ありがたく。だが、次は露隠の番であろう。」
「そうですなぁ…しかし、既に朱池に男子がおりますから、気は楽にございますよ」
「はっ、よく言うわ。」

話はといえば、これまた先日と変わりのないご子息のことばかり。
神代の長女と朱池家の長子がつい半年前に生まれてからはその話ばかりだ。
三人揃って孫に構いに行くので朱池の長子を筆頭として面々は大層苦労を強いられていることだろう。
最も、一番苦労するのは気が触れてると言われてるあの長子よりもその末な気もするが。
末といえば狐に好かれ憑かれの、兄らは狼に好かれので、上座で朗らかに笑っているあの当主からの筋とすれば……神代や露隠当主よりも若々しい見姿さえも何やら薄気味悪いものを感じるものだ。
そういえば、露隠のほうも子がより濃く蟲か何かの眷属の御霊とやらを継いだと言っていたし、そもそもそれを言い出せば神代当主とて両家に引けを取らぬのを思い出す。
ここにはいない黒澤の当主といえばかれこれ何百と生きている列記とした天狗であるし。ほかに露隠と並ぶ女郎花も蛇やら蛟やらの筋と聞く。
純然たる人間はこの場にはいないような気さえしてくる。いや、事実、ここに座っているものは誰もが僅かながら人ならざる血をひいてはいるのだが。
今でこそああして酒を酌み交わして静かにしていることに安心できるとは言えども……我々より遥かに力のある家長の誰かひとりでも怒らせれば死ぬことは目に見えている。

「だが今日ばかりは喜ばしい話題だけではなかったな」
「……えぇ、神代の者が死んだ、と伺いましたが」

そして突然の本題だった。
たった一言で空気が痺れるような凍るような、兎に角ぞくりと背筋が泡立つような感覚に襲われる。

「…あぁ。先代が死んだ。というよりはありゃ…殺されたといったところか。」
「先代だけか」
「…いやぁ、継いでるからこそ分かっちまうことがあってね。」

くいっと神代の長が杯を傾ける。空になったそれに露隠の者が酒をつぎ足した。飲み干してすぐにはぁあ、とため息をついたのがわかった。それほど深く大きなため息だった。それからすぐに怪訝そうに続きを待つ露隠と朱池の顔を見て、くっと笑ったのだ。



「次は俺が死ぬ」



そしてなんでもないようにそう言い放った。
露隠は何も言わない。朱池はそうか、と静かに言葉を返した。
下の者共はといえば、一瞬ざわめいてはいたが、すぐに静まり返った。


そしてその夜より半年後。
言葉通り、神代の長が先代と同様にして亡くなっていたという。
我々が葬儀に参列した時にはその痕跡はなく見えないようにされていたが、棺桶の中は殆ど空っぽだったとか。
葬儀のあと、今一度話し合いの席が設けられた。
いつも長が座っていた上座には長の弟が座っていたのを覚えている。






追伸。
当時は当主やわずかに血を引いてる者も含め神代の血筋はおよそ20名から30名ほどいたとされているが、現在ではわずか3名のみが生存を確認できている。
何があったかについては現当主のみが存じ上げておられる。
我々は…知らない。そういう決まりになった。知りたくば、雄然殿にお尋ねするように。








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神代家どんまいな話。
久希里五家は名前の通り、久希里のお偉方家系であり、久希里の安寧の為に差し出された生贄でもあるのです。
土地を穢したその贖罪に。

mae//tugi
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