※戦国トリップ話
※前ページの続き



がしゃぁんと花瓶が割れる音。
びくりと座っていた男の肩が跳ねた。

「ない、ない、ないないないないないないないない!なんで!どこに行ったの!?」

部屋のあちこちを乱雑にひっくり返しながら、光成は物を探していた。花瓶がわれても、戸が外れても、小物が壊れても気にしない。その様子を見ている男のほうが壊れたそれの値段を思っては青ざめた顔をしているほどだ。

「くそ、くそくそっ…なんでいねぇんだ…」
「お、おい、光成」
「あぁん!?今忙しーんだよ!」
「そ、それはわかるが…」

勇気を振り絞って、男が光成に声をかけた。ばっと勢いよく振り向いた苛立っている顔のその恐ろしいこと恐ろしいこと。ついつい体が仰け反るほどの剣幕で睨みつけられる。「そ、それ高いだろ…気を付けろよ」と忠告を言ったところで、「そんなガラクタどうでもいい!」と吐き捨てられる。ガラクタってお前、それそういう扱いしていい代物じゃねーから!と叫びたいが、心の内に止めておこう。がたがた、がしゃん。がたがた、ばさ、ぼそがさがさ。元気よく勢いよく探し物をしていた光成を見て、そういえばと思い出す。

「光成」
「あ?」
「き、桐箱はどうした?いつも大事にも」

持っているだろ、と言い切る前に、頬を何かがかすめた。だん、と力強い音と共に真横の柱に深々と日本刀が突き刺さっていた。どこから取り出したとか投げるなとか言いたいことは山ほどあるが、目の前でうっすらと微笑みを浮かべる男のその怒りっぷりからして、今日こんなに荒れに荒れているのは桐箱関連だとようやく合点がいく。

「すいませんね、つい、手が」
「ついじゃないだろこれ」
「つ い」

手に持っていた鞘がみしりと音を立てるのを聞いてしまった。そんなにやわにはできていないはずなんだがな。ふと突き刺さる日本刀を見れば、どうしてそんなに!と叫びたいほど深くまで刺さっていることに気がついた。危うくこれが顔面にあたっていたかと思えば、ぶわりと嫌な汗がでてきてしまった。いやいやいやいや殺す気じゃねぇか。

「そ、それで、桐箱はどうしたんだよ」
「…ないんです、朝から探しているのにどこにも!私がいつも大事に持ってるのに!ちょっと目を離したすきにないんですよ!?どうなってんだよ畜生!!そんなに僕の手元が嫌になってしまいましたか!!帰っておいで指ちゃーーーん!!!」
「落ち着けよお前!?」

とうとう、勢いよく戸を開けて、外へ向かって大きな声で叫びだした光成の様子を尻目に、家の中をぐるりと見渡す。割れてしまった、自分が一生働いても手に入らないだろう価値のある花瓶につい渋い顔をしてしまったが、ふと気がついた。妙な匂いがする。それだけでない、つい先日までは無かったはずの印なんかも増えているではないか。

「痛ーーーっ!!」
「バタバタバタバタギャーギャーギャーぎゃ朝からうるさいんだよ!」

戸口から盛大に叫んでいた光成が少し行ったところに住んでいるおばちゃんにビンタをされていた。あとついでとばかりに、屋根裏に住み着いてる鷹に顔を引っかかれていた。なんだあれ、怖い。怒られてるざまあみやがれ。

「光成」
「……うぅ…生きてけない…マイエンジェル指ちゃんいないと生きてけない…」
「光成、お前が相当な桐箱好愛好者なのはここいらのやつらはみんなしってっから。」
「なにそれ誤解です」
「安心しろ、ここらへんのやつらはお前から奪ったりはしない。」

戸口でぐずぐずとしゃがみこんでいる光成に声をかければ、一瞬心外だ!と言わんばかりに顔を上げた。だが、すぐに言葉の意味がわかったようだ。いや、だが言わせてもらう。お前は桐箱愛好者だ。それは、中身を知らないやつらが傍から見れば、だ。

「……奪う?ま、さか…」
「……香の匂いが残っている。」

だが、俺も。戸口に立っているおばばも。光成の肩にとまる鷹も。庵の向こうからこっそり様子を見ているあいつも。おばばについてきたらしい餓鬼も。みんな、知っている。光成が大好きな可愛い可愛い、指桐ちゃんのことくらい。

「まさか、誰が」
「ここのやつらじゃねぇだろうな。指桐ちゃんのこと強奪したりして死ぬくらいなら普通に遊びに来るわ」
「死ぬなんて心外です」
「自分の顔いっぺん見てきな」

今にも見知らぬ誘拐犯を殺すと言わんばかりの表情でよく言うとおばばがもう一度ひっぱたいた。今度は箒で。いい感じにみぞおちに当たったようで、ぐぅ、と唸りながら光成がくずれおちた。そのすきに戸口を確認してみれば、案の定、戸口にもいわゆる呪術の痕跡がひとつふたつ。これはもう確定としか思えない。

「どこの誰がまでは知らんが、連れてかれたな」
「……す」
「光成?」


振り向けば、光成がすっと立っていた。
その表情をついっと見上げて、ぞくりと鳥肌がたった。




「殺す」




その時の光成のことを思い出すだけで冷や汗がでるほど、それはそれは無表情で、おぞましかった。






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指ちゃん失踪ネタ。というか桐箱ごと奪われたよーな。
半人前光成が相手なら、忍者が頑張れば勝てるかもね!な。
あと光成さんは普通にどっかの集落に腰を落ち着かせてます。村人との交流があるのが楽しいんです。指ちゃんのためにも。

一緒にいたお兄さんは何時ぞやに痛い目みたモブ忍者さんじゃないですかね。
さらに集落のおばちゃんはイドルぶっ叩いたおばちゃんじゃないですかね。

多分地名は久希里ですね。




mae//tugi
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