※戦国トリップ話
※ちび神父様がちょっとあれな場所に捕まっていた編



「連れて行け」
「はっ」

事の発端は少し前。奥座敷に無断で入り込んだ不届きものが現れた。奥座敷にはちょうどお得意様がいらしていて、主人がそれはそれはお怒りになられた。だが、入り込んだ男もまた、背筋が泡立つような、そんな不気味ささえ感じる美しさを持つ男だった。じろりとその男を値踏みするように睨めて、得意様が主人に何かを囁いた。取り押さえられた男は地面に引き倒されたまま視線を一度も動かさなかった。その視線は一点だけを見つめている。ゆるりとその視線を辿れば、奥にいたのは案の定。今や此処で一番人気があるあの”人形”。なんだこの男も惚れたのか。主人と得意様でいい案でも思いついたようで、指示通りに男を引っ張った。見た目の割には随分と重たい。どれだけ引っ張ってもその目線は変わらずに、人形を見ていた。

少しの間、ずるずると男三人係で動かしたが、動きが止まった。困惑した表情と共に、その顔が青ざめていく。
微動だにせず、未だにソレは人形を見つめていた。

「  」

ぼそりとソレが何かを言った。視線の先では、ちょうど、得意様が人形に触れようとしていた。主人も、ほかの二人もその様子を見ていた。はて、そういえば。なぜあんなところに猫がいるのだろう。夜の帳も降りて、部屋の中は薄暗い。奥座敷は特に暗く、人形の白い肌と猫の目だけがぼんやりと浮き上がるかのような錯覚を覚えた。不意に、今しがた取り押さえていた男の姿はそれとは対照に、暗闇に溶け込むような幻覚を見た。いつの間にかここいら一体にはしんと不気味な静けさが満ちていた。息遣いさえも感じさせてはならないような、そんな。その空気に得意様も気がついて、主人と、それから男をゆるりと見た。

目が合う。

確かにソレは言った。
先ほどもそういった。
いや、何度も何度も、繰り返していた。
それは言葉としてではなく、どこからか直接、頭の中に響くように聞こえていた。

”かえせ”

”それは わたしのものだ”

そう、何度も何度も何度も何度も。
まるで血を吐くかのような、それでいて懇願するような声で。


主人が気味悪げに早く連れて行けと言った。渋々といまいちどソレを引っ張ったが、まるでびくともしない。足でも縫い付けられているのか。いや、それよりもまるで、巨石をたった三人で動かそうとしているかのような。これ以上主人の気を悪くしてはならないとどうにかしようと考えあぐねていたまさにその時。すっと視界が暗くなる。灯されていた灯りがなんの前触れもなく消えた。月がいつの間にか厚い雲に覆われていた。目が慣れても殆ど何も見えないほどの暗闇だった。何かが銀色に一瞬煌めいたかと思えば、右側から暖かい水しぶきを感じる。ぎぇ、と蛙を踏み潰した時のような音。いや、声。確かに聞こえた「邪魔だ」という苛立った声。ゆらりと炎浮かび上がるような赤。先ほどまでそれは金色だったじゃないか。その赤がこちらを捉えて、あぁ、後ろからなにかの音がする。吐息。恐る恐る振り向けば、赤い大きな目と、鋭いするどい…―――  ぐしょ、ごき、ぎぎ、ばぎ、ごり。









あぁ、最近はその噂でもちきりですものね。え?知りませんか。そうですか。いえね、大名がお忍びで来ていたほどの”とある店”が潰れたとか。それはそれはひどい有様だったそうですよ。店そのものが半壊!働いていた者の多くが無差別に頭を潰され、腕を喰われ、足を削がれ、体に風穴があいていたとか。それでも対して苦しまずに死ねただけ、これはまだいいほうでしょうね。特にひどかったのは奥座敷の方らしいですよ。店の主人はかろうじて息をしてたそうですが、その四肢は肉片と言うにふさわしく。意識はあれども、宙を見てはぶつぶつと支離滅裂に言葉を吐き続けるだけだと聞きますし。訪れていた得意様らしき人物はかろうじて上顎より上が残されていて判別でき、下顎から先はもはや赤い液体になっていたとか。獣にでも食われたとか、憶測ばかりで本当のところはわかりませんけどもね、とにかく、原型は残っていなかったようですよ。それから…用心棒替わりにそこにいたらしい男が三人、これはひとつの肉団子状態になっていたと聞きましたね。それ以上は誰も口を噤んでしまいますので、これもまたひどい有様だったということしか分かりませんけども。

 その惨劇から生き残った人が一人足りないと言ったそうで。曰く、奥座敷にはもう一人、部屋の主がいたはずだと。店の商品、一番人気。幼いが美しい、着飾った人形がおらぬと。この騒動の犯人は人形が目当てだったのでしょうね。まぁ、それが本意か不本意かはまた別の話ですが。ところで、これだけの大騒動を起こした犯人はといえば、捕まってはいないんですよ。しかしながらですね、犯人は分かっているんです。これもまた生き残りが…いや、違いますね。生き残るように仕向けられたかわいそうな生贄さん、ですね。まぁ事実として、生き残ったうちのひとりは聞いてしまったんです。「私のものに手を出した報いだ。」って。確かにその男はいったそうですよ。

 立札にその次の日に書かれていたの、見ましたか?えぇ。”絡繰技師鋳鍍屋捕縛報奨、倍額”と書いてありましたね。この時期で急にですよ。言われなくとも分かってしまいますよねぇ。ま、どれだけ鋳鍍屋の報奨金が増えたところで、殆どがその姿かたちを知らず、どこにいるかも知られぬようなそんなまやかしじみた存在を捕まえられるわけもないでしょう。せいぜい、今回のことで実在がはっきりとして、尚且つ大分人らしい存在だというのがわかっただけ十分ではありませんか。多くのものは言うことでしょうね。そんなおぞましい存在と関わり合いになどなりたくないと。

 あぁ、それからというもの、時折各地の大名や有力武将に商人といった地位と力に金があったはずの人間が鋳鍍屋に殺されることが増えたとも聞き及びますが、まぁ、それはまた別の話でしょう。


やれやれ、イドルもまた随分と荒れていますね。
あぁ、いえ、こちらの話ですよ。

ははは、すごく青ざめた顔をしていらっしゃいますね。それとも、僕の情報が信用ならないと?確かに、内容は荒唐無稽な与太話に聞こえないこともないでしょうけどねぇ。大丈夫ですよ。彼…鋳鍍屋は怒らせなければほかのおっかない存在よりはずーっと無害ですから。怒らせなければ…ね。








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光成は細々と情報屋でもやってそうだね。
桐箱抱きしめてるから桐箱さんとか。

イドルはそのあと神父さまをおうち(所在不明)に連れて帰る。マッハで。


mae//tugi
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