何も残らなかった。
全て持っていかれてしまった。
記憶と、一枚の写真だけを残して。

「あぁ、ぁ、ああぁぁあああ…」

頭を抱え、うずくまる。
写真を胸に泣けども泣けども、何一つ状況は変わらない。
それどころか、こうして後悔し泣けば泣くだけ苦しさが積み上がる気がするのだ。

いっそ、いっそ自分を殺してくれれば。
死んでいれば、こんな悲しみも苦しみも何もかも感じなかったというのに。


それどころか!
ああ、誰も罰してもくれないではないか!


そう、一人で嘆き続ける。
彼にとって失ったものがあまりに大きすぎた。



誰も知らぬ間に終わった、稚拙な話をしよう。
馬鹿な男のあまりに喜劇的で悲劇的な片思いの話を。
罪悪と孤独に蝕まれて死んでしまった男の話を。



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二度と会えない方のルートのおはなし。

断罪された方がが楽なのに、神様たちはそんなこたぁしてくれないのだというおはなし。
自分で自分を罰したところでどうにもならないし、結局彼は生き続けるのですけれども。それでもこの時、”死んで”しまうんですね。
人としてというか、彼としてというか。極限までに押し込めてしまうというか。幸せを綴った日記を厳重に厳重にしまいこんでしまうような。二度と開くことはない場所に仕舞いこんでしまうのです。彼としての今までのすべてを、捨ててしまうに等しいわけですね。だから彼は死んでしまうのです。

それでも彼は死ねないので。

別の神様がいるとしたら、その神様は高笑いをしている頃なので。死なせてなんてくれないんです。
おそらく強運に強運を重ねた無敵モードくらいの勢いですね。電車に轢かれても、高層ビルから飛び降りても、首をつっても焼かれても海に沈んでも、生きてしまうくらいの。
それはそれは消耗してしまうことでしょうが、まぁ、神様からしたら面白い余興みたいなものですかね。それでどうするのかと聞かれれば、生きるしかないんですよね。だって死ねない。

ま、都合のいいやつですから。
悲劇ぶって生き続けるんですよ。
捨てたつもりが捨てきれないまま、ずっと。
それが償いになると盲信しながら。
未だ憎い神に助けを求めながら。
いつか神を殺すと唾棄しながら。
享受して生きるんです。生かされるんです。
死んで、生き返されるんですね。

だってその方が面白いって、狐が笑ってるから。

そんなBADルートというか、IF未来ルートというか、世界線というか。
まぁ、そういうお話で。
とある男の終わりの話で、とある男の始まりの話です。


mae//tugi
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