一人の男が廃れた神社を訪れた。
色あせた鳥居を目前に、男はそれまでの歩みを止めた。
ぴったりと動きを止めたその様子は、躊躇しているようだった。
酷く疲労した様子で、その目元にはくっきりと濃い隈が刻まれている。
鳥居の前で一拍おいた男は、深呼吸をする。

心の中で男はぼやく。
自身にこの敷地に足を踏み入れる資格もないというのを理解しながらも、
結局はここにすがろうとする己の滑稽さを。

もう一度大きく息を吸った。
湿った空気が胸いっぱいに入り込むものの、鼓動は収まらない。
それでも、それでも、男は一歩、前へと、進んだ。

いくつか並ぶ鳥居のその向こう側。
銀色の神を靡かせながら嫌な笑みを浮かべた神主が言った。

「お久しぶりですね、お帰りなさい。」
「…あぁ…久しいな。」

その瞳が笑っているのか、笑っていないのか。
いつも判断することができなかった。

いつもいつもそうだった。
神主、シロウは、全てを見透かしているかのようだった。








神社の裏手にひっそりと建っている小屋が、シロウが現在すんでいる場所だった。
簡素すぎて生活感に欠けるその小屋を見ても、男は何も思わなかった。
見慣れていたのだ。シロウの生活感に欠ける様子なんてものは。

「…太郎兄さんと、次郎は」
「さぁ。太郎兄さんも、次郎兄さんも、出て行ったきりさっぱりですよ」
「…そうか」
「こうして再び会えたのは三郎兄さんくらいですかねぇ」
「…」

また会えてうれしいですよ、と淡々と述べるシロウに対して、三郎兄さんと呼ばれたその男は黙りこくるだけだった。
三郎兄さん、とシロウが呼ぶようにこの二人は兄弟だ。
それから、話題に出てきた太郎と次郎というのもまた、同様だ。
出されたお茶に手をつけることもできずに俯く三郎にシロウが声をかけた。

「それで、何かあったんですか」
「…」

シロウの問いかけにも三郎は答えない。
答えられないのかもしれない。
彼はシロウのいるこの神社に来ることをとても躊躇していたのは。
というのは、先ほど話題に出ていたとおりに兄である自身らが揃いも揃って家から出て行ったことが起因である。
兄である3人はまさしく、シロウを裏切ったも当然なのだ。
しかしながら、彼はこうしてシロウの元を訪れた。
そうするしかなかったのだ。八方塞。困り果てていた。

「シロウ、その…タノんでもいいか」
「はぁ。いいですけど…兄さんのタノミ、ちょっと違うんじゃないんですかねぇ」
「……じゃあしてくる」
「お好きにどうぞ」

言い出しにくいのか、シロウの目の前から逃げるかのように三郎は席を立った。
重い足取りで神社の正面へと向かう三郎を、シロウは暗い目で見つめながらさめたお茶を一口飲んだ。
三郎が角を曲がり、見えなくなったところで、ぽつりとシロウが言葉をこぼした。

「私がまだ恨んでいるとでも、思っているのでしょうかね」

神の使いなどと賞賛されることがあるこのシロウであっても、人の心というものは、わからなかった。
それゆえに、その思案が正しいことにも、気がつかなかったのだった。




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朱池兄弟はあんまり会わない

mae//tugi
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