ひらりとその長い布が揺れる。
歩くたび動く度にひらひらと揺れる衣服は特徴的で非常に目立つ。
ただ、今はほとんどの生き物が眠りについているような静かな夜なので、足音も立てずに歩いていくジョンを見る人はいない。その腕に少年が抱かれていようとも、誰も。
ぼんやりと目を開いている少年は、表情のわからない面隠しを見上げていた。体調は芳しくない。浮かび上がるような赤い三つ目模様を見ながら再び意識を手放した。

「まさかお前のようなのが人を助けることがあるとはな」

誰もいないと思われていた廊下に低い声が響く。歩みを止め、振り返るジョンはすぐに声の主を見た。オラクル騎士団総長、ヴァン・グランツ。また厄介なのに遭遇したとばかりに、ため息をついた。

「……拾っただけだ」
「そんなレプリカがなんの役に立つ」
「……書類の一枚くらいは書けるだろう」

モースにヴァンとともに秘密裏に導師のレプリカを作っていることくらい教えられていた。その際にできた失敗作たちを火口へと遺棄するのを監視するようにまで仰せつかっていたのだ。それくらいの信用というやつは積み重ねてあった。そして偶然火口の影に引っかかった失敗作を気まぐれで拾い上げただけなのだ。それこそ本当に、書類の一枚くらいは書けるようになるだろうという軽い気持ちで。
それゆえ、探るような厳しい目つきで睨まれる現状になんと答えればいいのかと呆れ半分困惑半分といったところだった。

「いいのか?大詠師に背くことになる」
「……さて、それはどうかな。そんなに気になるのなら譲っても構わんぞ」
「いや、遠慮しよう。せいぜい劣化品には何もできないことを痛感したらいい」

などと言いながら踵を返しどこかへ立ち去っていくヴァンの後ろ姿を見ながら、一体なんだったんだとひとり取り残される。確かに今手に持っているのは導師としての能力が劣る不用品ではあった。だが、それ以外の能力についてはなかなか申し分の無いレプリカといってもいいことだろう。少なくとも、必要ではないからと遺棄するには利用価値がありすぎるというのが人数が少なく忙しい第七師団長の考えだった。

「……やれ、気になるのならそういえばいいものを」

あとで欲しがるのも目に見えているととうに見えなくなった背中に、ぼそりと悪態をついた。それを聞いた人は、どこにもいない。その言葉が正解であることを今はまだ知らないが、さして気にもとめず、ジョンは再び誰もいない廊下を歩いていった。




三つ目の歩む夜の道
(灯りなどひとつもない)




拾ってきたソレがある程度安定してきた頃、案の定ヴァンはやってきた。所有権はこちらにあるということだけはきつく言い、渋々と引き渡したが、あの様子ではろくな使い方をしないかもしれない。ああいうのはうまくやればなかなか楽しい、いや、素晴らしいモノになるというのに、わかってはいないことだろう。「道具として使うにもやり方があるっていうのにねぇ」見た目はあれだが、やはりまだまだ若いとため息をつく。貸したものの扱いがあまりにも下手なようなら…そのときはどうするかなどと考えながらジョンは仕事へと戻っていくのだった。



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裏事情も色々知ってそうだよねっていうお話。

mae//tugi
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