まったくもって不気味と言わざるを得なかった。
微塵も顔を出すことはなく、最低限の言葉しか発さない。
しかし、実力はそれ相応に持ち合わせ、謡手と呼ばれる地位にいる。
どこか人間味さえ感じられないその人物は、情報部やほかの騎士団、導師守護ともまた違う立ち位置にいることを許可されていた。

表向きは彼の参入と共に結成された小規模護衛部隊、オラクル騎士団第七師団師団長という肩書きが示す通りの存在ではあるが、そもそも新設されて日の浅い第七師団そのものがほぼ大詠師モースの私兵という扱いが主であった。
ある日を境に突然発足したそれに疑念を抱かぬものがいないわけではないが、教団内でもダアトでも圧倒的な支持を受けている大詠師の命令とあれば表立って逆らうこともはばかられた。
それに、「万が一に備えて身を守るためだ。それとも、なにか不都合でもあるのか」などと言われては誰もがぐっと飲み込むよりほかにはない。
陰でモース親衛隊と揶揄されようと、あながち間違いでもないため誰もそれを咎めるようなこともなかった。

その元凶たるのが突然教団にやってきては師団長に命じられた、ジョン・クロスメアだったわけだ。常に大詠師の半歩後ろについて回る一切肌が覗かぬ怪しい傀儡というのがもっぱらの認識で、一度も命令に対して首を横に振ったことも失敗したこともないと噂され、やはり、とばかり言われるのがこの男だった。
実際には四六時中大詠師についているわけでなく、きちんと仕事もしてはいるのだが、それでも見かけるたびにセットで何やら秘密裏に行動をしているようでは思われても仕方のないことだろう。

「ジョン」
「…は」

足音もたてずに背後をついてきていた男に大詠師が声をかける。足を止めたモースにならい、ジョンもまた歩みを止め、恭しく礼をする。その様子は非常に見慣れてしまった光景にほかならなかった。

「導師のことは知っているな」
「……近頃、体調がかんばしくないと」
「あぁ。しばらくの間、お前に任せることになった。」
「……私が?」
「他の者も忙しくてな。導師守護役もいるが…万が一というのもある。一人くらい手隙の者をという話になった。」
「…その様な大役、光栄に思います」

深々と頭を下げるジョンに気をよくした様子で、今日からそちらに行くようにと言い、その場を立ち去った。それを見届けて、再び足音もなくジョンは導師イオンのいる部屋へと歩を進めるのだった。






三つ目の面隠しについて




扉がノックされ、アリエッタは扉を開けた。
「……導師守護か。」
顔は見えない上に、不気味な面隠しをしている男がいた。それが比較的最近新設された第七師団の師団長であることくらいは知っていた。
「…アリエッタです」
よろしく、とどこかぶっきらぼうな声と共に手袋をしている手が差し出された。一瞬戸惑ったが、アリエッタは結局、その手をとった。言葉や姿を一としない彼女にとって、その無機質に聞こえる声も奇妙な姿も大した弊害ではなかった。
「……なんだ」
「…なんでそんな喋り方…ですか?」
本当はそうではないんでしょう?と、問いかけるようにアリエッタは言った。驚いた、いや、流石というべきかとジョンは耳元に口を近づけて、「それはねぇ…秘密だよ、アリエッタちゃん」そう言いながら面の奥でにやりと笑ったのだった。



-----------
ジョンくんの階級とか地位とかそういうの考えてたお話。
大詠師の従順な手下みたいなポジでによによしてる。
あと、アリエッタちゃんとかは獣の直感的なものとかでなんかこいつうさんくせーなっていうのをわかってそうだなと。

mae//tugi
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -