仕事を他のやつらに押し付けて昼食をとる。
署内で食べるとゆっくりとすることもできないので、今回は寒空の中少し足を伸ばして知り合いのマスターがやっている喫茶店へと行くことにした。
なぜだかは知らないが、ここの…カフェ・アルファは無駄に昼食のメニューも充実しており、なかなかの穴場となっている。
温厚でにこやかで、まぁまぁ顔のましなマスターと、無愛想だか美人と言えるウエイトレスが二人三脚でやっているその様子もまたちょっとした安息には程よい。
「来てやったぜ」
「あぁ、刑事さん。いらっしゃいませ。マスター、刑事さんが来ました」
「見えてる見えてる。いらっしゃい、とっとと帰れ!」
「客に対する態度かそれが!」
からんからんと入店を告げる音に暇そうにしていたウエイトレスが出迎えてくれる。
カウンターにどかりと座れば嫌だと顔にでかでかと書かれたマスターが注文を聞いてくる。
喫茶店のメニューとは思えない豚丼を頼めばこれまた雑な対応をしながら厨房へと引っ込んだ。

ふと視線を感じて、正面にある棚を見れば見覚えのあるようなフランス人形と目があった。
気味が悪くて右へと視線をずらすと、今度は髪の長い日本人形と。
慌てて下へと視線をずらすと、今度は少し汚れたやけに小奇麗な人形と目があった。
ため息。こいつら、この間押し付けたブツだ。

渋々頬杖をついて外へと視線を写した。
窓にペタリとポスターが一枚。
大きくはっきりとした文字で、【久希里の安全は我々が守ります】
なんだうちの署の宣伝ポスターだ。
にこやかな笑顔を浮かべている婦警には見覚えがある。
紛れもない。うちの署のボスだ。
しかしにこやかだ。気持ちが悪いほどにいい笑顔を浮かべている。
それも、記憶にあるような人の悪いにたりとした笑顔ではなくて、愛らしく女性らしい笑顔!
ふと仕事を押し付けて昼休憩を取ったことを思い出し、背筋にぞくりとなにかが走ったと同時に、ポスターでにこやかに微笑むその表情になにか裏の意味を感じ取りそうになる。
広告とはなんだっただろうか。
早く昼食をとって帰りたい気持ちに襲われながら、頭を抱えた。

「ほい、豚丼。…どした?」
「…いや、なんでもない…いただきます」

胃に流し込む豚丼は目の前の男が作ったとは思えないほど家庭的でおいしい。
休憩しているウエイトレスのプライベートの性格は非常に厳しい。
ポスターで微笑む婦警は、ほぼCGと言えるくらい加工されているし、あくどい。
そしてこの街の刑事は、クズばかり。
本当、この街は…嘘だらけだ。
あ、しまった。携帯忘れた。またボスに怒鳴られる。


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久希里のおはなし。
いずれもうちょっと手を加えたいですかね。
マスターとウエイトレスもよく出てくる二人。
カフェまるごとNPCとしてCoCで登場させたあとに書いたものです。

即興小説お題【彼女と広告】

2013.06.27 移行

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