デスクの前をうろうろと歩く男にしびれを切らし、喝を入れた。
ぴたりと動きを止めて、男はこちらをむいた。
鋭いその黄色いその目はこちらを認めてはゆるりと柔らかな色合いへと変わる。
それがいったいなぜなのか、彼女は知らない。
「一体どうしたのですか」
「…ちょっと考え事」
「そうですか。そんなに動き回る必要性はないと判断いたしますが」
「つい、ね」
そう言ってはまたうろうろ、右へ左へ。
暇だからと彼の動きを目で追っていれば、ぴた、とまた動きをとめる。
くるりとこちらを向いて、にこりと笑った。
「…ねぇ」
「なんですか」
「さすがだね」
「…なにがでしょう。主語がなくては何もわかりません」
「ふふ、解決したよ。」
「そうですか。それはよかった。さっさと椅子へ座ったらどうでしょう」
冷たくあしらわれても嬉しそうに、満足そうに男は笑うだけだった。
完璧と謳われ、そう名乗る彼女でさえ、いつも男がなにを思っているのかはわからずじまいだった。
「そんな君が好きだよ」
「聞き飽きました。さぁ、仕事。」
「はいはい」
「はいは一度。」
「はーい」
そして男は一度だけ彼女の髪に触れて、椅子へと腰掛けた。
----------
これもマリネコンビの話。
即興小説お題【未熟な女】より
2013.06.27 移行
mae/◎/tugi>