「これがあなたの願いでしたよね」
ひどく冷静な声じゃないか。なんだ、怒ってるのかい?
ちょうど足元でうずくまり、涙を流している少女はぶつぶつとなにかをつぶやくだけで、これっぽっちもこっちの声なんか聞いちゃいないようだ。
正しく、これは全てこの少女ののぞみだったはずだったんだがね。
「ち、がう、ちがうちがう、だって、そんなこんなこと、ちがううそだ」
浅はかな望みのために、神様にお願い事をしたのは君だろうに。
後悔しないかってぇ、ちゃんとシロウが聞いたろうに…滑稽だなぁ。
おぉ、そらみろ、シロウが妙に綺麗に笑ってるじゃないか。
そっと顔を近づけて、あぁ、一体シロウ、君はその少女なんて言うつもりなんだい。
「あなたの、願いでしたよね?」
少女の願いは簡単だった。実に簡単な願いだった!(そりゃあ、一緒退屈なほどにね!)
シロウの背後にはなにかがごろりと転がっているって?
あぁ、そりゃ…まぁ、長兄が処分してしまうだろうから、対した問題じゃない。
「わざわざカミダノミしにくるほど、嫌いだったんでしょう」
後悔先に立たず?よくいうじゃないか。
はてさて…たかが18年程度しか生きていない子供にはわからないことなのかね?
それとも、ただ、この少女の運がなかっただけだろうか。
どのみち、これは、元にはもどるまいよ。
「お賽銭、しかと受け取りましたから」
そうそう、今日のお賽銭はたぁくさんの油揚げさ。
こんなたくさんの油揚げをもらっちゃぁ、そりゃあ張り切るってもんだろう?
「…せいぜい、神様が願いを聞き届けてしまったことを感謝するんですね」
…あぁ、なんだ、シロウ。お前、怒ってたのか。
こんなくだらない願い事を聞いてしまったあたしのことで、怒ってるのかい。
お前さんはほんとうにかわいいやつだよ!(じゃないとこんなに長いこと一緒にはいないさ!)
「怒ってなんかいませんよ。本当です」
そうかいそうかい。じゃあさっさと家に帰ろうか。
きっと長兄が暇をして、狼でも呼び寄せて遊んでる頃だろうよ。
これ以上境内が犬っころくさくなっちゃぁたまらない!
「えぇ、そうですね。兄さんのは困ったものです…」
ははは、全く、なんだって長兄とシロウ、お前は違う筋ひいちまってんだか、不思議だよ。
ガシャン。ドアがしまった。
少女は暗い部屋でなんで願ってしまったのかと両親だったモノに縋り付いて泣くだけだ。
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朱池に取り付く狐ちゃんが出来上がってきたのはこの頃。
シロウくんの話はまだまだやっていきたいです。
即興小説お題【冷たい負傷】
2013.06.27 移行
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