彼女は確かに言いました。
ずっと前から決めていたの、と。
傍らの男はそれに何を言うわけでもありません。
ただそれを受け入れるだけです。
彼女の言葉は彼にとって絶対ですから、当然です。

彼女は確かに言いました。
いっしょにいよう、と。
傍らの男はそれに頷くだけです。
ただそれを喜ぶだけです。
彼女の存在以外彼にとっては不必要ですから、当然です。

彼女は確かに言いました。
ごめんなさい、と。
傍らの男は首を振るだけです。
ただそれを悲しむだけです。
彼女が涙することは彼にとって最も嫌うことですから、当然です。

彼にとって彼女は世界でした。
なんの意思もない彼に、初めてそれをくれたのが彼女でしたから。
それまでただの人形に等しかった彼が生きているのも彼女のおかげ。
今こうして感情らしいものを手にしたのも彼女のおかげ。
全て全て、彼女のおかげ。
その彼女へと恩返しをしたいと思っても、うまくいきません。
彼の存在を求める者に追われ、結局は自由を奪われ。
こうして二人で鉄と機械ばかりの無機質な部屋へと閉じこもるばかり。

彼女にとってもまた、彼がすべてでした。
初めての成功作と思っていた彼に特別な感情を抱いたのは彼女でした。
いつしか彼も同様の感情を持つようになって、彼女は喜びました。
あまり表情に出ない彼女の感情も、彼は理解してくれました。
その彼がこうして、無機質な空間へ再び連れてこられ、
自由という自由を奪われてしまったのは結局、自分のせい。
毎日毎日、キーボードを叩き、薬品を手にしながら、彼女は自分を責めていました。

そんな日々も今日で終わり。
ずっとずっと昔、二人がすこしの時間だけ幸せだった頃。
あの日を再び取り戻すと彼女は決めました。
決めたのよ、と彼女が言えば、彼はそれに従うばかり。
誰ひとりとして止める人などおりません。
もうすでに、おりません。

重い扉を彼女は占めました。
満ちている鉄の香りは、部屋の香りでしょうか。
彼の手が赤いのも、えぇ、きっと気のせいでしょう。
今日で全ておわりですから、忘れてしまいましょう。

またいつの日か、この扉が開くことのないようにと彼女は祈ります。
またいつの日か、彼女が悲しまないようにと彼は祈ります。

電気を消して、さぁ、おしまい。
二人は手をつないで、外へといきました。
もうだれも邪魔することはできませんとも。
だれも、残っちゃいないのですから。


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これは、実は夢に見た光景の話でした。
所謂フランケンシュタインのような存在と、研究者の女の恋物語にもならない話の一節。
いまだ頭にこびりついているものもあります。
二人で仲良く、プリクラを撮りに行く。
そんな光景が未だにこびりついています。

即興小説お題【汚れたこだわり】より

2013.06.27 移行

mae//tugi
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