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もぞり。
もう何度目かわからない寝返りだった。
スコールは、もともと寝付きが良いほうではない。少し悩み事があるとそのことで頭がいっぱいになってしまうし、眠ることができたとしてもその睡眠はごく浅いもので、ちょっとしたことですぐ起きてしまう。それは生来のものもあったし、傭兵として常に緊張しているせいもあった。いついかなる時も油断しないように、剣を握れるように。気を抜いたら、睡眠どころか永遠の眠りについてしまうのだ。
今体を休めている秩序の聖域に用意されたコテージには特殊な結界が張られているらしく、この場所でそんなことを気にしなくていいのはわかっていたが、それでも習性というのは抜けきれない。ベッドに潜り込んでしばらく経つが、いまだ訪れる気配の無い睡魔を呼び寄せるために少し体を動かして来ようと、スコールはベッド脇に立て掛けておいた愛剣に手を伸ばした。
こんなとき、いつも役に立っていたのは睡眠導入剤だ。だが、この世界でそんなものが手に入るはずも無い。
何かを察したジタンがスリプル草をくれたりしたのだが、どうやらスコールには効かない類のものだったらしく、心優しい少年の善意を無駄にしてしまったこともある。少しの寝不足ならなんとかごまかせる。だがそれも積み重なれば疲労となり、いつか仲間の足を引っ張ることになるだろう。戦闘のプロを自認している身として、それはプライドに関わることであったし、何より他人の手助けを必要としたり、余計な心配をされるのはポリシーに反する。
なんとかしなければ、と思いつつも、彼に出来るのは、こうして深夜に肉体を極限まで酷使して、疲労してようやく訪れる睡魔に身を委ねることだ。

想像の中で敵を作り上げる。空中戦に弱いスコールが脳裏に浮かべるのは、宙を自在に飛び回る魔導の少女や、すばしっこい盗賊や少年剣士が多い。イミテーションがいれば最高なのだが、結界とやらはかなり強力なものらしく、近くにそれらしい気配はないし、かといってこの場を離れるわけにもいかなかった。
武器を構え、瞼を閉じて想像した敵の行動パターンを頭の中で再現していき、それにあわせてスコールも動く。一人倒せば別の人物でシミュレーションし、また倒したら繰り返し。
7人目を倒した辺りで、ようやく目が霞んできた。ガンブレードを肩に担いで、コテージに戻ろうと踵をかえす。こめかみを伝う汗に、まずシャワーを浴びようと思った。
だが、思わぬ妨害があった。

「お疲れ」

コテージは、扉を開けてすぐのところがまず皆の憩いの場にもなるリビングとなっている。テーブルと、同じデザインの椅子。さらにはゆったりとしたソファまで用意されているので、戦いの場にいることを忘れてしまいそうになるほどだ。そのソファに、バッツが座っていた。
リビングの明かりは最低限に抑えられているので、声が無ければバッツだとわからなかったかもしれない。そのくらいに、彼の輪郭は闇に溶けかかっていた。

「…何か用か」

まさか不眠気味であることに気付かれているのだろうかと、スコールは緊張した。
ジタンもバッツも妙に聡いところがある。ジタンはまだ絶妙な距離を保ってくれる。今回のスリプル草の件だって、内心では何か思っていたようだったが、結局渡すだけで彼がスコールに何かを尋ねることはなかった。だが、バッツはどちらかというとノックの返事を待たずに部屋に入ってくるようなタイプだ。
ただ無神経なだけならスコールも気にしない。無視すればいいだけだ。だが、この目の前の男は、持ち前の観察眼から何かを悟っていくのだ。心を読まれているようで酷く落ち着けないそれが、スコールは苦手だった。

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