揺れる | ナノ





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零と手を繋いだまま、誰もいない廊下を歩く

零も何も喋らず、ずっと黙ったまま…

何か話さないと…



「あの…」

『あのさ!』



同時に喋りだし、ふと歩みが止まった

少しだけ先を歩いていた零がこちらを向く

夕焼けに染まった零の顔…

怒っているようにも、困っているようにも見える



――私…好きなんだよね?…零の事…



先生に翻弄されたからなのか、どこか他人事の様に考えてしまった

昨日まで…

違う…さっきまでの私なら…

間違いなく手を繋いで歩いているこの状況を…喜んだはず…

なのに…



『…何…?』

「そっちこそ…」



また、沈黙…



「…俺からいいか?」

『…うん…』



こうして話してる間も、零と手は繋いだまま



「…アンタ…由紀の事が好きなのか?」

『え…?』



全身が一瞬にして強張った…



「だったら、俺とこうして帰るのは…嫌だよな…」

『………』



何で、違うって…

私が好きなのは零だって…言えないんだろう…

戸惑いで自分の心がわからなくて、声を出す事すら出来ないでいた



「…やっぱり、あいつの事…」



首を振るのが精一杯…

だから、繋いでいる零の手を私の精一杯で握る

不意に零の大きな手が私の頬に触れた



「…だったら、なんでそんな苦しそうな顔をしてんだ?」



苦しそう…?

私…好きな人と一緒にいるのに、そんな顔してるの…?

そんな顔…見せなくないよ…



『…ご…め…零。…こ…な顔、見られたくな…』



一度は握りしめた零の手を…そっと離した

私は、零の顔を見れなくて俯いてしまった…



「…俺、アンタが…美花の事が…好きだ…」



大きく体が震える



『…ぅ…そ…』

「…だから、わかる。アンタが何を見て、何を感じて、何を思っているのか…」



何故だかわからないけど…

涙が溢れて…零れた…

と、同時に零の溜め息も耳に入る



「今日は、由紀に送ってもらった方がいい…」



ワカンナイ…

ワカンナイヨ……



私…今、零に告白されたのに…

零の両手が私の肩にかかると、そのまま後ろに向かされる

私が向いているのは…今、歩いてきた廊下…

この先は…冴島先生のいる化学準備室



「ほら、早く行かないと…由紀と入れ違いになるぞ…」



先生は、零と帰れと言う…

零は、先生と帰れと…

混乱している私の頭が、この状況に追いつくはずもなく…

零に押し出される…



「…じゃ…」



その言葉が背中から聞こえて

少しだけ振り返ると、こちらを見る事もなく私からどんどん遠ざかって行く





そして…見えなくなった

先生のところにも行けず、零を追いかける事もできず…

私の心は宙ぶらりんのまま…

流れる涙もそのままに、その場に座り込んでしまった

















美花に背を向け、一度も振り返らず彼女から離れた



屋上から見える化学準備室で、美花が由紀に見せたあの表情が頭から離れず、気がつくと夢中でその場所を目指して走った

ライバルは…寮生だと思っていた

だから、油断したのか…?

あのほんの数分で、彼女の表情が変わった…

まだ自覚はしてないだろう

それなのに…美花の顔は[女]の顔になっていた



彼女から死角になる階段にしゃがみ込むと…一気に息を吐き出した



[[美花から離れる]]



この行動にどれだけ緊張してたんだ…



由紀を好きになろうとしてる美花…

止めようと思えば…

奪おうと思えばできる

でも…それでアイツは…幸せになるのか?

一か八かで、あいつに告ったが、あの美花の反応は望みがない



美花の心…全部が欲しい…

100%の気持ち全部で俺を見るアイツの心が欲しい…

無理矢理に奪うと、美花が壊れる…

だから…

俺は離れた…

今までも見守ってきたんだ

これからだって…出来るはず

この時の俺は、そう思っていた



狂った歯車が動き出した事に気が付かずに…



















もう、あいつらも学校から出ただろう…

頃合いを見計らって、準備室にカギをかけた

グランドにいる野球部員もダウンと片付けに入っている

やけに月の明かりがその存在を主張していた

校舎には人の気配もない…

…はずだった…



「篠原!藤堂と帰ったはずだろうが?…どうし…た…?」



廊下に座り込んで動かない篠原は、顔を涙でグシャグシャに濡らしていた



『…せ…んせ…ふぅっ…うっ…』



俺の顔を見た途端に、声をあげて泣き出した



「お、おい…」



男どもの扱いには慣れていても、いきなりの女子高生の涙には流石の俺も困った



――だいたい、藤堂はどうした?



パニクりながらも、ズボンや白衣のポケットを探る

出てきたのは、ヨレヨレのハンカチ…

何もないよりは、マシか…



「ほら、涙ふけ!」



こんな事くらいで涙が止まればいいと思ったが、そんなに甘いもんでもなく…

ガシガシと髪をクシャクシャにし、篠原の隣に座り込むと



「出血大サービスだ。…ほら!」



その小さな体を腕の中に包み込むように…抱きしめた…は、違うな…

閉じ込めた…

力無く倒れ込むように、体を俺に預ける



――ちっさいな…こいつ…



俺の白衣を握りしめ、小さく震えながら泣く篠原美花を…愛おしいと思い始めた自分に気付き始めていた









それぞれの心の揺れが…

動き出し始める…











2010.02.02

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