揺れる | ナノ





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「よーし、答案用紙を後ろから集めてこーい」



やっとテストが終了…

背伸びをして開放感に浸る

しばらくボーッとしたい…

苦手な化学の勉強漬けで頭がどうにかなりそう…

天気のいい校庭を思わず眺めた

この天気の良さを考えると、零が屋上で昼寝したい気持ちわかるかも…

なんて事を考えてると



「おい篠原!放課後、化学準備室に来い!」



現実に引き戻される

この声の主に…



『…え…』



「オレ様からの指名だ。有り難く思うんだな』



口の端を上げ、ニヤリと笑うと教室から出て行った

言葉にならなくて、そのままボー然としてしまう



「おい、美花…お前なんかしたのか?」



心配そうに佑くんが私の顔を覗き込む



『…う、うぅん…』



力なく頭を左右に振る



「あの由紀ちゃんの顔は、怒ってるよねぇ…」

『え…?怒ってる?』



私の肩に手を置いて、晃も話に加わる



「普通は睨みを利かせながら、俺達にいろいろ言うけど、あの笑顔の由紀はマジでやべぇな…」



亮の言葉に益々奮えあがってしまう



――私、先生に何かしたのかな…



まるで覚えがないのに、皆に煽られどんどん顔が青ざめていくのがわかる



「おい、あんまり煽るな!美花が怖がっているだろうが…」

啓一朗の言葉も虚しく、すでに奮え気味の私は



『…ありがと、啓一朗。とりあえず、覚悟決めて放課後行ってくるね…』



覚悟なんか決まってないくせに最大の強がり…

ホームルームを終えると、私は意を決して化学準備室へと向かった
















コンコン…



『篠原です。失礼しま…あれ?』



準備室のドアを開けようとしたけど鍵がかかっていて、先生がまだ来ていないんだとわかった

準備室は、危ない薬品なんかも置いてあるから、先生は常に鍵をかけているんだよね

化学室の鍵は開いていて、私はそっと中に入り待つ事にした

窓際の席に座ると、欠伸をしてしまった



――ゆうべ何時に寝たっけ…



前の晩も遅くまで試験勉強をしていた

ちょうどいい気温、そして試験からの解放で気が緩み…

いつの間にかウトウトと眠ってしまっていた
















『…う…ん…』

「目、覚めたか?」



その声に一瞬にして目が覚め、跳び起きた



『せ、先生!!すみません』



先生を待っている間に寝てしまっていた

という事実だけが、頭の中でグルグルと回る



――お、怒られる…



近づいてきた先生にビクビクしてしまった



「ん…少しは顔色もいいみたいだな…」



先生の言葉に驚きを隠せなかった



『あの…』

「テスト中も顔色悪かったからな。あのまま帰すより俺が車で送った方がいいだろう…」



皆が先生は怒ってるなんて言ってたから…

私は少し拍子抜けしてしまって、ホッと一息つくところを先生に見られていた



「だいたい、ちゃんと授業を聞いていたら一夜漬けなんかしなくてもテストなんて80点は取れるぞ!」



私はちゃんと授業聞いてるけどわからないんですっ!!

そんな反論も心の中でしかできなかった



「おい!お前のカバン持ってきたから送るぞ」

『…はい…ありがとうございます…』



って…あれ?

よく考えたら化学室で寝てたはずなのに…

化学準備室のソファーにいる私…

私の表情を見て



「あぁ、あんなとこで寝かせられるか。ここまでオレ様が運んでやったんだよ…」



その台詞に私の顔から血の気が引いたのがわかった

運ばれたんだ…先生に…



「オマエ痩せすぎだぞ。もっとしっかり食え!藤堂はグラマラス美女が好みだぞ」



――グラマラス美女って…えっ?



先生を見るとニヤニヤと私の心を見透かしたように笑っている



『なんでそこに藤堂くんが出て来るんですか?』



ヤバイ…動悸が…



「顔に書いてるぞ!オマエ程わかりやすい奴も珍しいけどな…」



顔が熱い…もう、やだ…



「オマエが来てから藤堂は変わったからな…いい意味で。寮の奴らも…」



そう言った先生の表情は、今までに見たこともないくらい優しくて…

私の頭をポンポンと撫でた



「あいつらには…言うなよ…」



うっっ…先生の目が怖い…



『…ハイ…』



その時…





ガラッ





準備室のドアがいきなり開いた



「ハァハァ…美花、迎えにきた。帰るぞ!」

「なんだ?藤堂、ノックもせずに…」



声を荒げた先生の言葉の後に、コンコンとノックをする



「こいつは俺が送って行く。待ってたんだ…顔色悪かったから。用事は済んだんだろ?」



零の言葉に先生の口元が緩む



「だとよ…。俺以外に気がついた奴がいたのか…」



なんか…いつもの先生らしくないかな…?



『先生…?』

「オマエに選ばせてやるよ。俺の車で帰るか…?藤堂と歩いて帰るか…?」



そう言った先生の目も、零の目もすごく真剣で…

ただならぬ雰囲気に何も答えられないでいた



「オマエは…藤堂と帰れ。後は、頼んだぞ」

『…あっ…』



そのまま追い出されるように準備室を出た

零が心配して私の顔を覗きこんでくる



「あいつに…何もされてないよな?」



声が出なくて、コクコクと頷くことしかできなかった



「帰ろ…」



零の差し出してくれた手を戸惑いながらも握る













なんだろう…

私は零の事が好きなのに

何故か心がざわついている

冴島先生が他の人には見せない顔を私に見せてくれたから?

先生の本当の優しさに触れたから…?

その答えはまだ私にはわからない

でも…今、零と一緒にいるのに、私の頭は違う人の事で一杯になっている

心が…

揺れている…















無理やり車で送ればよかったか…?

けど、あいつを振り回すのはな…

男相手なら何でもアリだが、あいつは…女だ…

あいつの出現でこの学校の男どもの落ち着きがない

俺の心も揺れている















由紀の呼び出しがおかしいと感じて屋上から化学室を見ていた

何をするわけでもなく、寝ていた美花をソファーに運んだだけ

それなのに、俺の全部が危険だと感じて自然と化学室に向かっていた

胸騒ぎがするのは俺だけか…?












それぞれの心が



揺れる…
















2009.11.18

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