Promise-夢想- | ナノ





真実







毎日の練習の中で、徐々に京介との息もあってきた



今では、毎日の昼休みの時間までもが京介との練習の時間にあてられている



私も京介も春さんたちからすれば、全然足元にも及ばない…



だけど、ガッカリさせたくない



その思いだけで突き進んでいた



春さんが、よくできたと言って微笑んでくれるとそれだけで嬉しくなる



最初はそんな風にしか思ってなかった…



だけど、その意識を変えたのは京介の存在…



彼がいなかったら、向上心を持って、ライブには臨めなかったかも…



一緒に唄うという事を通して、負けたくないという思いで努力をしたり、その日出来なかった事で自分に課題を出したり…



今までの私からは想像もできない



そして…新たな発見もした



自分が思っている以上に、私は唄う事が好きだってこと…



春さんに…

夏輝さんに…

JADEに…

そして、京介に出会ってなければ…



自覚しなかっただろう



今、毎日が楽しい



私のどこにこんな情熱があったんだろう…



この日を最後に明日から練習場所が移動する



学園祭に正式に参加を許された私たちは、放課後、空き教室での練習が認められた



音楽室での本格的な練習も割り当てられている



春さんと夏輝さんが学園祭に関する様々な事を教えてくれた



学園祭は土日とあり、土曜のプログラムに私たちは出演する



土曜のアンケートで上位に入れば、日曜にある講堂でのライブに出演ができる



春さんも夏輝さんもアンケート上位を狙っているみたい



土曜のライブ、せめて体育館が当たればと二人は祈っているよう…


バンド等の出し物はとても多く、クジで場所振りをされるらしい…



下手すればグラウンド…なんて事もあるみたい



今まではJADEが借りているスタジオでの練習が主だった



帰りは駅までいつも京介と帰っていた



この日もそう…



練習終わりに帰る支度をしていると、春さんの携帯が鳴った



あまり気にとめてなかったけど、携帯を切った春さんはスタジオを一番に飛び出して行った



京介と駅に向かって歩く



話題は専ら学園祭の事…



「今までは音響設備の整った場所での練習だったけど、明日から教室だろ?」



『うん。そうだよね…また違った感じで聞こえるのかな…?』



「たぶん…。!!菜々子ちゃん、ちょっとこっち…」



普通に話していたのに、いきなり腕を引っ張られて体を反転させられた



『ど、どうしたの?京介…おか…し…い……』



視界の隅に映った光景に驚き、立ち止まる



『は……るさ…』



先に帰ったはずの春さんがいて…


女の人と肩を組んで歩いていた



私も見た事がないような楽しそうな表情で…



「菜々子ちゃ…」



『…か、彼女かな…春さんのあんな顔…見た事ないし…はは…』



言葉が詰まってしまって、それ以上何も言えなくなってしまった



「こっち!」



顔をあげられなくなって、その場から動けなくなった私の手を引いて京介が歩き出す



何も見たくない



何も考えたくない



何も…したくない…



どこをどう歩いたのか、さっぱり覚えてない



ただ、歩いていた



京介と手を繋いで…


















気がつくと、駅の裏にある公園のベンチに座っていた



隣には…京介が何も言わずに座っていて、私の手をしっかりと握っていた



『きょう…すけ……』



私の問いかけにハッとした表情の京介が



「ごめん…手なんか繋いで…」



そう言って繋いでいた手を離す



「俺、知ってた…菜々子ちゃんが神堂先輩の事好きな事も、神堂先輩に彼女がいる事も…神堂先輩の彼女って…生徒会長の北川さん…」



京介の言葉に顔がカァーッと赤くなるのがわかった



京介は私の気持ちを知ってた…



春さんに彼女がいるかもなんて…考えもしなかった



「さっき、禾夜ちゃんに連絡したら…すぐにここに来るって…」



――…禾夜…が…



「ごめん…菜々子ちゃん…俺…」



「菜々子!!」



京介の言葉を遮るように聞こえた禾夜の声は、すでに涙声で…



私の名前を呼ばれた後、私は禾夜の香りで包まれた



禾夜が私に抱きついていたから…



禾夜の香りは、優しくて、甘い果実のようだった



『いい匂い…お風呂入ったのに、走ってきたの?』



首に巻き付いた腕は緩むこともなく、肩に埋めていた禾夜の頭がわずかにコクコクと頷く



























禾夜と京介…



二人が私の家までついてきた



道中はほとんど何も話さず、ただ禾夜は私の手を握りしめていた



『ありがとう…うちまで送ってくれて…』



門の前で私は二人に振り返る



「禾夜ちゃんは、俺が送って行くから…」



『うん…気をつけて帰ってね…』



禾夜を見ると、もう涙は流してないけど…



目は真っ赤に腫れていて



『今夜、目をあっためてから冷やすんだよ?明日、大変だよ…』



私の言葉に禾夜は顔を上げる



「…うん。ごめん、私が泣いて…」



『ありがとう。私の代わりに泣いてくれたんだよね?』



また潤む禾夜の目…



『もう、禾夜〜…』



禾夜の頭を撫でると、京介に促されて禾夜が歩き出す



「また、明日…」



京介の声に反応して、二人に手を振る



姿が見えなくなるまで、その方向を見つめていた



誰もいなくなった道路を見つめたまま、頬を涙がつたう



声を殺して…



その場にうずくまり、静かに…泣いた…














09.それぞれの想い へ

2009.08.09



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