Promise-夢想- | ナノ





それぞれの想い







「京介くん…私、菜々子に悪い事しちゃったかな…」



「…どうして?」



「私が…煽ったんだよ…。春さんに彼女がいるかどうかなんて確かめもせずに…」



いつも菜々子ちゃんの隣でニコニコしている禾夜ちゃんとは違う



彼女の失恋をまるで自分の事のように考えている



ホントに二人は仲が良いんだな…



彼女たちを見ていると、羨ましくて仕方ない



JADEのメンバーも入っていけない絆を感じる



だから、悔しかった…



初めてJADEのメンバーに会った時、無視されたのが…



高校に入るまで、友人と呼べる奴ってどのくらいいただろう…



中学で陸上をしていて、記録が残った時…



それまでにないくらいの注目を浴びた



俺は陸上に存在価値を見つけていたんだ



だけど…それも怪我によって挫折…



俺の残した記録は今年破られ、俺の名前はもう残っていない



親友がいたら、このひねくれた性格もどうにかなったのかな…



「禾夜ちゃんが煽ってないとしても、人の気持ちなんと止められないと思うけどな…」



彼女が傷つかない…そんな言葉を探してる



俺は…こんな自分を誰にも悟られたくない



曝け出したくない…



「…京介くん…菜々子が失恋して、内心喜んでるでしょう?」



「え…」



何も返せなかった



…事実だったから…



「でも…いいんじゃない?それも…」



「…禾…夜ちゃ…」



「びっくりした?」



そう言って、いつもかけてある彼女のトレードマークとも言える赤い眼鏡をはずした



「京介くん視点に立てば…そう思うけどな…」



思わず笑いが込み上げてきた



「…プッ…禾夜ちゃんは考えが柔軟だな…」



「京介くんは、菜々子に一目惚れ?」



――!!!



俺の心は彼女には見透かされてんだな…



「そんな顔しないで…山勘は…よく当たるんだよね」


















いつからだろう…



菜々子を遠くから見ている視線に気がついたのは…



近くにいるのに、すごく遠い…



そんな感じで見ていた



今、考えると…



ライブのチケットも頼み込んで譲って貰ったんじゃないだろうか…



菜々子が春さんに接近しそうだったから…



だけど、春さんの歌と夏輝さんのギターに惚れたって言った京介くんは嘘ではないと思う



菜々子視点で考えると、春さんとうまくいってほしかった



だけど…



人の気持ちって、そんなマンガや映画のようにはいかないよね



それぞれに物語があって、みんなその物語の主人公なんだもん



「禾夜ちゃん、俺ね…確かに菜々子ちゃんの事、好きだよ。神堂先輩に彼女がいるってわかった時、喜んだ…。だけどさっき、神堂先輩と北川さんが一緒にいるところを見つけた時…見せちゃいけないって思った…。なんでだろな…」



そう言って悲しそうに微笑む京介くんは本当に辛そうで…



「…それは…菜々子の悲しむ顔を見たくなかったからだよ…菜々子の笑顔が好きでしょ?」



初めて、京介くんの顔が歪んだ気がした



私にわからないように顔を隠す



「…なんでわかるかって思うでしょ?私も菜々子が大好きだから…」



「君は…すごいな…」



少しだけ、声が震えているように感じた



二人並んで駅までの道を歩く…



「京介くんも私の友達だから…」



父親の転勤で、特定の場所に長くいた事がない私…



友達はすぐにできる



だけど…





















もうすっかり暗くなった空には、星が瞬いていた



風呂からあがると、二階の自室の窓を開け星空を眺める



禾夜に最初に告白した、春さんへの想い…



あの時、私は



『好きって自覚したばかりだから、どうしたいとかはないの…』



確かにそう言った



春さんの彼女になりたかったのかな…



だから、涙が出たのかな…



人って、欲張りなんだね…



ううん…違う…



私は、春さんの特別になりたかったんだ



それは《彼女》という特定のものではなくて…



だから…



私の声を、歌を、好きだと言ってくれた春さんに認められたかった



私には、歌がある



春さんが認めてくれた歌が…



私が唄う事で、春さんが笑顔になるなら…



いくらでも唄う…



それも…特別だよね…



鞄から楽譜を取り出し、歌を口ずさむ



認めてもらった歌で、春さんを喜ばせる



私の中に新たな決意が生まれた



















次の日、学校に行くと禾夜と京介が揃って私を出迎えた



『おはよ…どうしたの?二人とも…』



禾夜の瞼は、やっぱり少し腫れていて



『禾夜…ちゃんとあっためてから冷やした?』



顔を覗き込むと、私を見つめる



「おはよ…菜々子。良かった…ちゃんと、学校に来て…」



『え?』



京介に目をやると



「昨日はいろいろとごめんね、菜々子ちゃん。俺がもっと早くに伝えていたら…」



京介の顔も曇る



『禾夜、京介、私ね…』



少し強めの口調で話す



『春さんの彼女を望んでなんかいなかった。まだ、恋に恋してたってわかった。でも、春さんの特別になりたい。春さんが私に望んでくれた歌は、ちゃんとやりたい。だから…』



ゆっくりと深呼吸する



『二人とも、ありがとう…素敵な友達に出会えて、私は幸せ者だよ』



「……友達…か…。それもいいかな…」



京介が私の頭をクシャッと撫でる



「ホントに…吹っ切れたんだね…良かった…」



禾夜が私の手を取る



『うん、だから…学園祭、頑張るよ!春さんや夏輝さんにガッカリされたくないから…』



――バイバイ…私の恋…



この時を境に、私の春さんへの想いは《恋》ではなくなった



悲しい意味ではなく、また新しい気持ちで春さんに接しようと決めた














10.遂に… へ

2009.08.15

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