Promise-夢想- | ナノ





練習の日々、そして成長





学園祭に向けての選曲と練習が始まった



元々JADEはオリジナルで勝負してきたバンド…



だけど今回の目的は、ただ純粋に学校という空間にJADEという伝説を残したいって…

だから生徒たちが知っている曲を選ばないといけない



何と言っても見所は…春さんのピアノ…

女性ボーカルを立てたから、春さんは演奏とコーラスにまわる事になった




――私がコーラスでいいと思うのに…




少し懐かしめのヒットソングを唄う事になり、曲が決まるとネットで楽譜を探しダウンロードをする



そこからアレンジが始まった



ただコピーするのは…皆、嫌なんだって



さすがはアマチュアでも天下のJADEだ…



皆がアレンジを始めた頃、春さんに呼び出された



「君に毎日やる発声を教えておこうか…そのうち声が出るようになったら難しいのもやろう…」



そう言ってピアノの前に座る



歌に関して私はド素人だから…



そうは思っても、春さんとの個人レッスンは私にとってはすごく嬉しかった



「中西くん、君もやる?」



学園祭までの間、京介は私たちのサポートをしてくれている

サポートといっても、雑用がほとんどだけど…



春さんの誘いに京介の顔がパァ−ッと明るくなる



「発声をやりだすと、腹筋の動きなんかよくわかるよ」



お腹に手をあて、春さんのピアノに合わせて声を出す



これができそうでなかなか難しかった



京介もかなり苦戦している



「腹筋…やった方がいいな…」



京介の呟きに私も頷いた




――自分の意識を変えないと…春さんに迷惑をかけてしまう…




京介の言葉はいつも私に何かを気付かせてくれる



ホントにさりげなく…



発声が終わると、春さんの声に合わせて声を出す



ただ出すのではなく、共鳴を意識して…



発声がまだちゃんとできない私にとって…春さんと共鳴するなんて夢のまた夢



今の私では駄目だ…



「初めてにしては、二人とも上出来!」



褒められているはずなのに、私の心はすでに折れてしまいそうになっていた



そんな中…



「中西、ちょっと…」



「はい!神堂先輩、ありがとうございました!!」



京介は春さんにお礼を告げて、夏輝さんの方へと行った



自然とその京介の姿を追いかけて見てしまう



私の中にはない京介の姿勢…



「彼は、本気だね…目が…」



春さんの言葉にハッとした




――今、私…京介を見ていた…春さんといるのに…




この日を境に私は京介を意識してしまう



















そして私の体力作りが始まった



朝起きてランニング、夜寝る前に腹筋も欠かさずやった



暇さえあれば、発声をする



合間に歌詞を頭に叩き込みながら、歌を口ずさむ



始めはできなかった発声が出来るようになり、春さんと共鳴まではいかないにしても、だんだんと声が出るようになってきていた



それは私だけでなく京介も同じだった



「うん、二人ともよく声が出るようになってきた…」



春さんのその言葉が嬉しくて、ホッとため息をつく



「で、これを…菜々子ちゃんと…中西くんに…」



『えっ?』



「俺?」



私たちに渡されたのは、新しい楽譜…



「みんなで散々考えて、ツインボーカルでやる事にした」



バサッ…‥



楽譜を落とした音…



だけどそれは私ではなく、京介だった



「神堂先輩、俺は…」



「俺たちと同じステージに立つのは、嫌か?」



「そ、そんな事は…」



京介の肩が震えている



きっと、私だけじゃなくて皆、気がついていたんだ



雑用しながら、陰でずっと努力していた事を…



私にもわかる



京介の声が格段に伸びのある声になってきたこと



「この曲をちょっと二人で唄って…」



春さんは京介が落とした楽譜を拾い渡すと、誰もが知っている歌謡曲をピアノで弾いてみせる



その伴奏に合わせて京介と二人で唄う



〜♪〜〜♪



――な、何…?この感覚…ピタッと重なってる…



私の声に京介の声が張り付くような…私の声が京介の声に張り付くような不思議な感覚…



京介を恐る恐る見ると、京介も驚いた顔でこちらを見ている



京介だけじゃない…



夏輝さんも、秋羅さんも…冬馬さんも…



ただ、春さんだけがこうなる事がわかっていたように、微笑みながらピアノを弾いている



唄い終わると、京介と目が合う…



私と京介…きっと同じ事を考えていたのかも…



「二人の声質が似ているから、やっぱりこうなった…」



「神堂先輩は、わかって…」



京介の言葉に春さんは、微笑んで返す



『春さん…私と京介の声が共鳴したら、どうなるんですか?』



私の言葉に春さんは肩をすくめる



「…それは、恐らく自分の声なのか彼の声なのかわからないような現象になるはず…声質が全く違う二人が醸し出すハーモニーは極上だと思う。だけど…君達にはそうではない[錯覚]を起こさせてほしい。今はまだ、俺の頭の中だけの事だけど…そのうちわかるさ…。京介!俺たちとやろう…」



春さんの真っ直ぐな目…



夏輝さんが京介の肩をポンッと叩く



「京介って、呼んでいいよな?」


「折原先輩…」



「さっきの…凄かったな…」



冬馬さんが私の頭に手をポンッと置いて話かけてきた



「この二人なら、もっと難しいアレンジにしても大丈夫そうだな…春」



秋羅さんの言葉に、私と京介の顔色が変わる



『えっ!ちょ、ちょっと…』




















毎日続く練習の日々…



徐々に春さんの要求も厳しくなっていく



毎日毎日続けられる限界ギリギリの声出し…



春さんのオッケーが出るまで京介と呼吸を合わせ、息の続く限り唄う…



二人の呼吸がピッタリ合った瞬間に生まれたハーモニーに体の奥が熱くなる



それは、初めて春さんの歌声を聞いた、あの時の感覚に似ていて




――私の声がこんな風になるなんて…




「よし…できたな…」



春さんの満足そうな言葉に、前に春さんの話していた[錯覚]に近づいたように思えた

まだはっきりとはわからないけど…



「…やった…」



そして…私の隣で小さくガッツポーズする京介が…眩しく見えた…













08.真実 へ

2009.07.27

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