Promise-夢想- | ナノ





自覚









「菜々子!神堂先輩の歌を聞けて、ラッキーだったね♪」



教室に帰って来てからの禾夜の興奮はすごかった

なんて言いながら、私もなんだけど…



結局あの後、折原先輩に声をかけられ、春さんの歌は最後までは聞けなかった



だけどまだ耳に残る春さんの歌声に、私の頭の中は一杯になっていた



昨日拾った紙に書かれていたのは歌詞だったらしく…



さっき私と禾夜が聞いた曲は春さんと折原先輩が作ったオリジナルだった



『演奏なしのアカペラだったけど…ホントにすごかったね…』



「明日もおいでって、言われちゃったしね?」



折原先輩のその言葉にはびっくりしちゃったけど、春さんも承諾してくれたし…



春さんの歌声を聞いてから、私の中で何かがざわついている



「2人して、お昼から帰ってきてからおかしくない?」



興奮している私たちに、京介が近づいてきてそう言い放つ…



「ねぇ、京介くんは3年生の折原先輩と神堂先輩って知ってる?」



「あぁ、あの…目立つしね…」



目を細めながらそう言う彼は、なんだか拗ねているようにも見えた



「お知り合いになれたんだよねぇ?」



禾夜の笑顔が止まらない



「へぇ…2人でいる所しか見た事ないよ。…同じ3年生でも一緒にいる所見た事がない…」



「でしょ?」



「でも、俺は同じ3年でも北川さんがいいなぁ…大人って感じが♪」



『あぁ、カッコイイよね…同じ女として憧れる!』



うちの学校の生徒会長は、女の人なんだよね…

とても美人で女子生徒憧れの人…


もちろん男子にも人気だから、京介の発言にも納得した



ふと窓の外を見ると、校庭の隅に春さんがいる



――あ…次の時間、体育なんだ…



木陰で座ったまま、空を見上げている



春さんの視線の先に何があるのか気になって、私もその視線を追いかけた



真っ青な空にひとつだけ浮かぶ雲を見つけた時、心があったかくなった



今、春さんと同じものを見ているんだと…



「…、菜々子?どうしたの?」



会話に入らずに外を見ていた私に禾夜が声をかけてきた



『ううん…いい天気だなぁって…』



「あ…」



京介が外を見て何かに気がついた



「どうしたの?」



禾夜が聞くと



「いや…気のせい…」



京介は言葉をそこで止めると、私をちらっと見る

その目からは冷たさを感じてしまった



――京介は私が春さんを見ていた事に気がついたんだよね…



なんだかそう思うと恥ずかしくなって京介から目を反らした


























次の日も、そのまた次の日も…

昼休みになると私は禾夜と共に中庭へと出かけた

当たり前のように…



今では折原先輩の呼び方までもが、《夏輝さん》に代わっている



それは禾夜も同じだった



「今度、俺達となり町でライブする事になったんだけど…もし都合がよくて、興味があったら来ない?」



突然の夏輝さんの言葉に驚いたけど、私も禾夜も意外と乗り気で…



『春さん、私たち行ってもいいですか?』



何も言わない春さんに思わずそんな事を聞いていた



「ああ、よかったら…」



いつものようにあまり多くを語らない…
















授業中でも校庭に春さんがいるかもと、自然にその姿を探している



移動教室で3年生の教室の側を通る時、なぜか緊張している私がいる



私の目はいつも春さんを探していた



――私は、春さんに恋をして…



自分でも自覚した



『禾夜…私ね…春さんの事が…』


「…うん…」



私の告白を静かに聞いてくれる…



『春さんの事が…好き…』



「…菜々子…わかってたよ…いつも、目は春さんを追いかけてたもんね…」



禾夜は…知っていて黙ってくれた


私が自覚するまで…彼女に打ち明けるまで…待っていてくれた



おそらく真っ赤になっているだろう私の顔を、満面の笑みで受け止めてくれて…

そっと私の頭を抱き寄せてくれた



「頑張ってね!私、できる事は何でもする…応援するからね…」



その言葉が私をどれだけ勇気づけてくれたことか…



禾夜の存在がどれだけ私の支えになっていたか…



『好きって自覚したばかりだから…まだどうしたいとかってないの…』



「うん、いいんだよ…ゆっくりで…」



私の気持ちをありのまま受け止めてくれる友達がいる



それだけで私には最強の味方がついていたんだ





















数週間後…

春さんと夏輝さんのバンドのライブの日




夕方から始まるライブに向けて昼過ぎに禾夜と駅前で待ち合わせをしていた



私の方が来るのが早かったらしく、禾夜はまだ着いてなかった



そして、メールを送る



《早く着いちゃったみたい。駅ビルのアイスクリーム屋にいるね。》



すぐに禾夜からメールが返ってきた



《ごめん…もうすぐ着くから…》



その内容を確認してから店に入る


注文をして、外からよく見える位置に座った



禾夜が来た時に分かりやすいように…



その時私の目に飛び込んできたのは、綺麗な女の人と歩いている京介の姿だった



――彼女かな…?彼女いるって聞いた事ないけど…



京介は私には気がつかずにそのまま人込みに消えた



すぐに禾夜と合流すると、私の頭から京介の事は忘れ去られていた


ライブの話でもちきりになり、春さんの歌を聞ける喜びに浸っていたから…




もうすぐ…ライブが始まる…















04.衝撃 へ

2009.06.26

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