Promise-夢想- | ナノ





きっかけ









「しっかし…菜々子ちゃん、めちゃめちゃ歌上手いな…」



「ほんと!!びっくりしちゃった…」



『そっ?…かな…』



カラオケの帰りに京介と禾夜が私の背中をバンバン叩きながら言う



昔から、町ののど自慢とか出場させられていたな…



あんまり褒められた事のない私は、2人の興奮した会話に恥ずかしくなっていた



「菜々子の声って…奥行きがあるっていうか、ライブとかで映える声じゃない?」



「うん!そんな感じ!!学祭とかで唄ったらよさそうだよな…」



『褒めすぎだよ…そんな事ないって…』



褒められる事に慣れていないけれど…悪い気はしなかった






















「菜々子!お昼、中庭行こうよ♪」



今日はとてもいい天気だから、それもいいかもと賛成する



「すぐにパン買って行くから、場所確保しててね!」



『了解!』



私は自分のお弁当を持って中庭へと向かう



















ほどほどに日があたり、春の良い風が吹いている



特等席ともいえる場所が空いていた



私はそこに腰掛け、禾夜が来るのを待つ



その時、私の足元に数枚の紙が飛んできた



それを拾い集めた時、声をかけられる



「ああ、すまない…それ、俺の…」



声の方に振りかえると、神堂先輩が立っていた



『…あ…はい、どうぞ…』



私が拾ったものを先輩に渡すと



「名前…」



『えっ?』



「君の名前、教えて…」



その容姿からは想像もできないくらい柔らかい物腰…



もっとツンツンした人なのかと思っていた



『…1年C組の…#name1#菜々子です…』



私の名前を聞くと、フッと微笑む



「俺は、春…神堂春…3年…こんな格好してるから、先輩らしくもないけど…」



――…春…



『先輩の名前、綺麗ですね…音の響きとか…。…私…その名前好きだなぁ…』



私がそう言うと、目の前の神堂先輩が手で口元を覆う



「…そう?ありがとう…女みたいな名前で…抵抗あったんだけど…」



すぐに照れているんだとわかった


綺麗なブラウンの瞳に、綺麗な名前…



そしてなにより、その声にも魅力を感じてしまった



高くもなく、低くもなく…柔らかい声…



「菜々子ちゃん?俺の事は、春でいいから…先輩って呼ばれるのは…とても、照れくさい…」



『えっ?でも…』



初めて話したという事もあって、そう呼ぶ事に抵抗があった



「せっかく名前を褒めてもらったんだ…嫌?」



だけど…なんだかすごく困った顔をしてる…



『じゃあ…春さんって呼びます…』



「…ああ、頼むよ…それじゃ…。あ、これ…ありがとう」



少しホッとしたように笑った春さんは、その場を立ち去った



――なんだろう…この感じ…



私の名前を聞いてきた時の微笑み


恥ずかしくて手で口元を押さえた姿…



困った顔をした後のホッとした顔…



どれもが、私の脳裏に焼き付いていた









「菜々子、お待たせ!…どうかした…?」



禾夜の声に我にかえる…



『ううん、お弁当食べよう♪』



2人で木陰に座り、お弁当を広げた時…



「あれ?…春、どこに行ったんだ…」



その声の方を見ると、折原先輩が立っていた



『あの…春さんなら、新校舎の方に行きましたけど…』



「…菜々子?」



禾夜が驚いた顔をして私を見る



「そう?ありがとう…あれ?君は…」



折原先輩の私を見る目は戸惑っているようにも見えた



『あ…さっき拾いものをして…少し話をしたんで…』



クスッと折原先輩が笑う…



「へぇ、春が見知らぬ子と話を…まぁいいや…ありがとう」



折原先輩は春さんが向かった方に歩きながら、携帯を扱う



「神堂先輩と話をしたの?」



禾夜の大きな目が一際大きくなっている



『たまたまだよ…』



卵焼きを頬張りながら答えると



「しかも…春さんだって…」



――禾夜…顔がにやけてる…



『だから…たまたまだから…』















そこで春さんや折原先輩に会ったからなのか、禾夜は次の日も中庭でのお昼を提案してきた



「ね?また行こうよ♪今日は私もお弁当持ってきた!」



にこにこと屈託のない笑顔で顔を覗き込む禾夜…



私はため息をつき



『わかったよ…今日も天気がいいし、外で食べよっか…』



「何?お昼に何かあるの?」



いつの間にか京介が側にいて興味津々に聞いてきた



「なーんでもないよ♪ねっ?菜々子!」



『うん、お昼の相談してただけだし…』



「ふーん…ねぇ、俺も一緒していい?」



――京介とお昼食べたい子なんて探せばいくらでもいるのに…変なの…



私の心の声が聞こえたのか、顔色を伺ったからなのか…



「んー…今回はいいや、また今度!」



踵を返しその場を去った



禾夜と顔を見合わせると、何故か同時にふき出してしまった


















2人してお弁当を持ち、中庭に移動する



昨日の場所には先客がいて、諦めて別の場所を探そうとした時だった



〜♪〜〜♪♪



――唄ってる…この声…



木の陰から足が少しだけ見えていた



2人で恐る恐る近づくと、唄っていたのは…春さんで…



――綺麗な声…メロディーも…綺麗…



透明感のある…印象的な声…



昨日春さんと話した時とはまた声が違っていた



メロディーもバラードで、伸びのある春さんの声にとてもピッタリで…



時間がたつのも忘れて禾夜と2人で聴き入ってしまっていた



私は自分の背中にゾクゾクという震えが走っているのを感じていた


――どうしたんだろう…私…体の奥が熱い…














03.自覚 へ

2009.06.22

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