音彩【ねいろ】 | ナノ










トロイメライはデビューから、瞬く間に話題になり

その名前を聞いても彼らだと世間でも認識されるようになった



だが…

何かが足りない…



シングルを出しても、つねに2位キープ

まだ1位を取った事がなかった







妹のカレンは歌姫だと言われ、そのルックスからCMや雑誌など単独での仕事が増えてきている

トロイメライが注目されるのも、そのビジュアルからだ

雅楽はそれが面白くないみたいだな…

アイツはホントに音楽にはストイックだ

それがアイツの書く歌詞にも表れている

そんな時に

事件が起こった…





















「ボーカルが抜けるて、どういうこっちゃ!」



今年のツアー最終日を目前にして、妹のカレンがトロイメライを抜けてソロ活動をしたいと言い出した

理由は…

聞かなくてもわかっていた

佐藤にそれを伝えると、社長室に奴の声が響く



「アイツは…トロイメライの顔やぞ!」



こんなに苛々した佐藤も珍しいな…



「何でや?…なんでカレンの脱退を許したんや、七瀬?」

「確かに、カレンはトロイメライの顔で、歌姫なんて言われてかなりの戦力だ…だけどな…今の現状がアイツの限界だ!ソロなら、もう少し上も狙えるだろう…。アイツの声はロック向きじゃない…」

「せやけど…」

「これはチャンスだぞ!トロイメライを音楽界の頂点に立たせるための…。俺は、雅楽も瑠禾も櫂も龍も…ホントの実力はまだ眠っていると思っている。カレンが世間に騒がれたからアイツらは脇役に回ったんだ。彼らが100%の力を発揮できるような、そんなボーカリストを…探し出す」

「…七瀬…」



ツアー最終日をこんな気持ちで迎えるとはな…

何よりファンを大事にしてきたトロイメライが見納めになるとは誰も予想なんてしてないだろうな

いや…

これはチャンスだ…

バンドは一人が目立ってもダメだ

全員が同じ場所に立たないと…


カレンは…ボーカルという立場もあり、際立った存在だった…

それは事務所としては喜ばしい事でも、トロイメライの事を考えたら…



「だいたい、カレンの脱退の理由は雅楽絡みやろう…。仲直りして、やっぱりトロイメライに戻るぅ…なんて言い出したらどないすんねん!」



佐藤の言葉にフッと笑みをこぼし



「プロ意識の高い雅楽がそれを許すとも思わないが…」

「その余裕がムカつくやっちゃ…ま、そこは俺も同感やな」



さっきまで眉間にシワを寄せていた佐藤の顔がやっと緩む



「明日、トロイメライ全員を集めてくれ…」




















翌日、カレンを含めたトロイメライが社長室に集まった

雰囲気は…最悪…だな



「カレンから、トロイメライを抜けたいと話があったが…」

「やる気のねぇ奴が居ても仕方ねぇよ!抜けるのも勝手だ、俺は止めねぇ!」

「雅楽の意見に賛成!」



珍しく瑠禾が積極的に発言する

カレンの表情がみるみる険しくなっていく



「社長、ちょっといい?」

「あぁ…」



櫂までも…



「彼女が抜けたら、俺たち…解散て事になるのかな?」



言葉は調子良くても、瞳は真剣そのもの…



「いや…トロイメライの解散は有り得ない!」

「ちょ…!私が抜けるんだから解散してよ!私以外のボーカルなんて許さない!!」

「ふざけんな!!」



そう言って立ち上がった雅楽を制する佐藤…



「落ち着け!雅楽…」

「カレンにとってムシのいい話、俺は絶対に認めない…。トロイメライはアンタの物じゃない!」



静かに瑠禾が言葉を紡ぐ



「…トロイメライが失くならないなら、俺は何でもいい…」

「…瑠禾…」



雅楽がドサッとソファーに力なく座る



「カレンには脱退という形をとってもらってソロ歌手として活動してもらう。トロイメライは、ボーカルを俺と佐藤で探す」



瑠禾と雅楽、そして櫂が頷く



「…龍は…?」

「社長や皆が決めた事なら、俺は従います。ただ…トロイメライのファンには、いつ公表するんですか?」

「それは、ツアーが終わってからや…」

「だとしたら、今度の最終日はカレンが最後だと告げないでライブをやれと…?」



佐藤が黙って頷く



「やだ、そんなの!…私にいつものように笑って歌えって?…酷いよ…」

「甘ったれるな!お前はプロじゃないのか…。そんなだったらいつでも解雇してやる!」





カレンの目に涙が溜まるのがわかる

ここまで甘やかしてしまった俺にも責任がある

だから、突き放さないといけない…

彼女の為にも…
















トロイメライツアー最終日…



それまでの集大成と言える素晴らしいライブだった

カレンも…

全力を出し切り、歌いきった



ステージを降りた彼女に声をかける



「今までで一番いいライブだったぞ…」

「…当たり前!…日々、進化するんです!ソロになってもトロイメライには負けないんだから!歌姫の座は渡さない…」



カレンの気性を考えると、これで良かったんだと思う













「社長!」



佐藤から書類を渡された



「学園祭とライブハウス情報。ま、都内だけでも1ヶ月だけでぎょうさんあるわ…」



さすがに佐藤の仕事は早い



「手分けして回るか…。矢内さんにも頼んである」

「そーやな…脱退発表したら動きにくぅなるし…この1ヶ月が勝負か…」





















夜はやっと涼しくなり、虫の声が聞こえ始めた

新しいトロイメライに出会う為に

俺と佐藤の足掻きが始まった





まだ、夢の途中…

あいつらの為にも納得のいく人物を探さないとな…














秋から冬へ

2010.09.20

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