音彩【ねいろ】 | ナノ











「次は新生トロイメライです!」



生の歌番組で新しくなったトロイメライを披露する





『は、はじめまして。ボーカルの美花です』

「うわ〜、緊張してんなぁ」





カメラの死角から新しいボーカルを加えたトロイメライを見守る



ガチガチに緊張している彼女に佐藤が変な顔をし必死に笑わそうとして





「ブッ…」





瑠禾がそのポーカーフェイスを崩し、雅楽が慌てる





「あっちゃー…失敗や…」

「そうでもないぞ…」





絶対的存在感のカレンがいなくなり、俺と佐藤で見つけた新しいボーカルの美花は…

カレンの持つ印象とは真逆の人物だった



ただ、マイクを持つと驚く程のパワーを発揮する



歌うという事が好きで、自分にはこれしかないという鬼気迫るものがある



カレンにはなかったものを彼女は持っている



普段は気が小さく目立つ事もしない彼女を変えるのは…歌だ…





「笑え!笑ってくれ!」





佐藤が隣で必死になればなるほど、瑠禾の笑いが止まらなくなった



それをフォローする龍と櫂…

佐藤を睨む雅楽





「仲間意識が芽生えてるじゃないか…」

「…は?…何を言うてんのや!」





佐藤の目には、美花の姿しか写ってないようだ



やっとスタートラインに立った

そんな気持ちで一杯になる



美花は必ずトロイメライの起爆剤になる



新しい風を彼女が起こしてくれる















カレンに変わるボーカル探しを始めて3ヶ月



もう季節はすっかり冬へと移り変わっていた



一体どれくらいのアーティストのタマゴを見てきただろうか…




その間にカレンの脱退が芸能ニュースで報じられ、今トロイメライは休止状態にある



俺と佐藤を信頼して待ってくれているアイツらに

そしてトロイメライの活動再開を待ち侘びているファンの為にも納得の人物を連れていかないと…




















「あぁ、ちょっと予定の時間より早く着いたらしい。先に中にいるぞ」





懐かしいハコに入ると、音響と照明のチェックの真っ最中だった





「五十嵐さん!」





懐かしい顔を見つけて、彼の傍に行く





「おう、来たな!」





俺と佐藤の思い出のライブハウス…





「連絡、ありがとうございました!」





ガッチリと握手をして…





「まぁ、お前たちが探している者だといいけどな…」

「…はい…」





何でも急遽出演の決まったボーカルがいるからと、五十嵐さんに連絡をもらった



決まったバンドには所属していない



助っ人としてたまに出演をする女性ボーカルだという





「今日、アイツは来ないのか?」

「後で来ますよ。ちょっと仕事で遅れているだけです」

「そうか…来るか!」





懐かしい場所で懐かしい顔に会うと、あの頃にタイムスリップする



五十嵐さんは耳がいい



インディーズ時代のトロイメライもここでライブをさせてもらった事がある



彼らの音楽を覚えてくれていて、それに合うボーカルだと思って連絡をくれたんだと思った



佐藤も俺も五十嵐さんの耳と感性に賭けていた…





「出演後に会う事って可能ですか?」

「それは出来るが、先に俺から伝えなくていいよな?」

「…はい。彼女の実力を聞かせてもらってから…」





ニヤッと笑うと、了解と言って片手をあげた




















「悪い…遅うなって…」





1組目のバンドが終了と同時に佐藤がやって来た





「次の次だ」





そう佐藤に告げると、五十嵐さんのいるブースに頭を下げた



何も会話を交わさずに周りの音も歓声も耳に入らないくらい静かにその時が来るのを待った



目を閉じて耳に神経を研ぎ澄ます





「っ!」

「!!」





最初の第一声からすぐに彼女だとわかった





「…佐藤…」





こちらを見ずにステージに釘付けになっている佐藤の表情に





確信する…





「…見つけた…」


















「それでは歌のスタンバイをしていただきましょう!」





CM中に隣のスタジオに移動をする





「佐藤!お前、ふざけんな!!」

「あ?何もふざけとらんわ。俺は美花をリラックスさせようとしてやなぁ…」

「堅司、さっきのもう一回やって…」

「…何を言うとんのや?」





移動しながらの言い合いは…ある意味トロイメライ風味と言うべきか…





「おい!今からファンの前で演奏するんだぞ!」





龍の一声で緊張の糸が張りつめたのがわかった





「…俺達を…待っててくれたんだぞ…」





佐藤が雅楽と瑠禾の背中をポンと叩く





「龍…みんなわかっとるて…な?」

「あああぁ!楽しみぃ♪ねっ?龍!」

「…あぁ」





佐藤と櫂の言葉に全員が頷く

ただ一人を除いて…



「美花!」

『は、はい!』





声をかけると体全体が飛び上がり思わず皆が爆笑した



真っ赤になった顔を隠すように肩を竦めて…

コイツの緊張なんて、当たり前だ





「大丈夫。お前の目の前には応援してくれているファンがいる。美花の後ろには、メンバーがいる。敵じゃない…仲間だ!」





奇跡なんだぞ…

俺が佐藤に出会ってなければ、お前たちとも会ってなかったかもしれない



人の出会いなんて偶然が重なり合っていて、単純なようで実は解明なんてできない



たった一つでもタイミングが違えば全く別の人生だったかも…





「見つけたんだ…やっと…」





美花の震える手をギュッと握る



佐藤がそこに手を添える

すぐに櫂が、そして龍、雅楽、瑠禾が次々と手を乗せる




気がつけば円陣を組んでいて…





「新生トロイメライ…いや…最強のトロイメライを見せてやれ!」





全員が頷く

そして、少し遅れて美花も…





「すみませ〜ん…もうすぐCMあけますんでスタンバイを!」





スタッフに促されてスタジオに入れば、ファンの熱気が凄かった





「スイッチ入りよったな…」





佐藤の言葉に美花を見れば表情がさっきまでと違う





「ライブの方がアイツには合ってるだろう」

「せやな!ファンも待っててくれた…こっからや!」





佐藤…気がついてないだろうが、カレンを見つけた時よりも今の方がいい顔してるぞ

もしかしたら…俺も…なのかもな…




彼女の歌声を聞いた瞬間、雷に打たれたようだった



頭から彼女の声に感電して、身動きができなかった



それは佐藤も同じだった





「4人の個性が生かされつつ、美花の声があいつらを纏めとる…七瀬、アイツらならやってくれるよな…」





心なしか佐藤の目が潤んでいるようにも見える





「美花を4人がきっちりサポートしつつ、個々を確立してんだ。どっちにしてもアイツらなら…てっぺん獲れる!」





キラキラのスポットライトを浴びて、ファンを前に演奏する彼らはイキイキとしていて、さっきまでの緊張が嘘のように彼女の声も伸びる




















佐藤と事務所を立ち上げようと再会した春



トロイメライのデビューとなった夏



カレンが脱退した秋



美花を見つけた冬



季節は巡る

出会いと別れを繰り返して…







俺と佐藤の夢…


そして、彼らと彼女の夢の物語が始まる


トロイメライの音と共に…















-end-
Special Thanks 関西弁監修 of* かや様

2009.01.31

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