音彩【ねいろ】 | ナノ









「アッチィ―!!」

「もう!日焼けしちゃう…」

「あっ!俺、日焼け止め持ってきてるよ〜♪使う?」

「ああ、お前らやかましいわ。いい加減、静かにせい!」

「堅司、カルシウム不足…」



夏の風物詩、夏フェス

やっと、こいつらのデビューにこぎつけた

俺と佐藤の夢―…

















たった2人でスタートした事務所も数名のお笑いのタマゴと数組のアーティストを抱えるまでになった

事務所の運営を支えるスタッフも今は増えている

そして、新人バンドをデビューさせる事になった

俺と佐藤の手でバンドを音楽界の頂点に立たせる

その第一歩となるバンド…

“トロイメライ”

















「七瀬、見つけたで!!」



佐藤の興奮気味の声に驚く

コイツの感性は確かで、今、密かに知られつつある“エマノン”も佐藤が見つけて口説いてきた

プロデュース力も凄い

顔を出さない売り方もどうかと思ったが、これが当たり始めている



「見つけたって…?」

「バンドや!日本の頂点に立てるバンド!!」



ニィ〜っと笑い



「お前、なんで今まで隠しとった!!」

「は?」



佐藤の言動に心当たりがない



「お前の妹や!」

「…カレン…?アイツ、バンドなんか組んでんのか?」



そんな話、聞いた事ないぞ…

っていうか…



「今、アイツが何をしてるかなんて知らないぞ。高校生だという事くらいしか…」

「兄貴っちゅーやつは、そんなもんなんか…?」



そう言った佐藤が取り出したのは1枚のDVD



「ま、コレを見ぃ…」



そこには、ライブハウスで歌う妹カレンの姿…

でもそれ以上に引き付けられたのはギターとピアノの少年だった

このバンドの主軸はこの二人…

直感でそう感じていた



その後カレンと連絡を取り、彼らと会う

ドラムとベースは高校を卒業したら音楽から離れるという理由から、メンバー探しから始める事にした

なんとしても、彼らをメジャーに…










佐藤と共にメンバー探しを始める

アマチュアバンドのライブハウス回り、そして学園祭も…

時にはこいつら3人を連れて行く事も…

そして、遂にベースとドラムを見つけた

それが…


トロイメライ―…


今以上の実力をつけてもらう為に、暇さえあればライブハウスに出演させた

バンドとしてはライブを熟す事で、自然と口コミで名前も知れ渡るだろう

大手の事務所なら、宣伝費をかけて新人バンドを大々的に売り出して行くだろうが…

俺も佐藤も彼らにそれはしたくなかった

個々の実力はある彼らだ…

後はライブ経験を積んで、チーム力を上げていく

それが備われば、少々のバンド内トラブルは解決できる



ライブ出演を重ねて、頃合いを見計らってインディーズCDを製作

もうこの頃には、トロイメライの形は出来上がっていた



ピアノの瑠禾が作曲を担当

ギターの雅楽が作詞を担当



俺が思っていた通り、彼らがこのトロイメライの主軸となる

このCDは、口コミで広がり話題を呼び、インディーズの記録を塗り替えるほどに売れた


その頃に転機が訪れる


レコード会社との契約が決まった

話はかなり前からあったが、時期とタイミングを見計らっていた

そして、彼らのデビューがそのレコード会社主催の夏フェスに決まる























「社長…、来とったんですか…?」



佐藤は、外では俺を社長と呼ぶ



「あぁ、今日はトロイメライのデビューだからな…」



新人バンドとは思えないほど落ち着き払った彼らの表情…

それは、ライブで培ったもので

彼らにとっても、俺と佐藤にとっても通過点であってゴールではない

まだ…始まってもない…



「お兄ちゃん!いくら妹が心配だからって、恥ずかしいからこんな所まで来ないでよ!!」

「こら!外では社長と呼ばんか!」



佐藤の拳がカレンの頭に直撃する

プライドの高いカレンだが、佐藤には頭が上がらない



「佐藤の言うとおりだ。プロとしてやって行くんだろ…」

「ブー…」



カレンの頭を撫でてやると



「あぁ…また社長が甘やかしとる…」



佐藤が手で目を覆う

見つからないないようにカレンの背中を押した

渋々俺たちから離れて、テントの中に入り仕度を始める




















トロイメライの出番が刻々と近づき、舞台袖へと移動する



「七瀬……」



隣に並ぶ佐藤から不意に声をかけられる



「ここからがホンマの勝負やな…」

「あぁ…。デビューまで俺達について来きてくれたあいつらに感謝するよ…」



ロックバンドを音楽界の頂点に立たせるという俺と佐藤の夢を託したトロイメライ

彼らが陽の当たる場所へ行こうとしている



「あいつらだけやない…。俺らが見つけて育てたタマゴは音楽界に旋風を巻き起こすんや」

「ははは…。お前の野望も凄いな」

「当たり前や。俺が誰と組んどる思うねん!」



こいつが言うように、俺にそんな力があるのか…?

俺は佐藤だからやれている



「時間や!会場におる客にお前らを刻み込んでやれ!」



強気だな…佐藤は…



「よし!行くぞ」

「おう!」

「皆、よろしく!」

「もっちろん♪」

「うん…」



それぞれが肩や背中を押すように声を掛け合う

チーム力も上がってきたな



「佐藤…」

「なんや?」

「奴らに見せてやらなきゃな。テッペンの風景ってやつを…。もちろん、お前にも…」

「うわっ!お前だけ見たっちゅー嫌味か!」



二人で笑い合いながら、真夏の太陽が照り付けるステージの彼らに目を向ける



「こんにちは〜♪トロイメライです!」









夏から秋へ

2010.07.11

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