コスプレみたいなもんだ。


私が奇妙奇天烈な手術をマーモンに施されて以降、世界中で私と同じような人間がまたたくまに増えていった。なんでかって、マフィアの技術班が闇ルート(笑)で政府にアンドロイド技術を売ったのだった。まずは人間国宝と富豪たち、それから小金持ちのじいちゃんばあちゃん、それから不治の病にかかった子供たち(患部を人工のものに換えられる場合に限って)。そして結局、人工人体はカラーテレビと同じくらいの普及率になっていった。

だって全然高くないんだもん、お安いんだもん。
その手術にかかる費用は、病院で一回の診察を受けるのと同じくらいの値段になっていた。なんでかって、人が増えすぎてもうお墓を作る土地がないから。終末医療をするための人が足りないから。政府がばかみたいに多額の支援をして、その代わり人々は子供を作らないという誓約書を書いて、体を永遠のものにする。
子供がいなければ待機児童も義務教育もなんにもない。社会がただただ回るだけ。


そのうち、「生まれ変わりビジネス」っていうのがはやり始めた。人はもう死なないから、「生まれ変わったら何になりたい?」なんてちょっと恥ずかしい話もただの綺麗なロマンスへと仕立て上げられていたのである。ある企業がロシアかどっかの土地を買い占めて、そこに新しい社会を作り(24時間テイクが続いてるロケ現場みたいなもんだ)、客がそこで別の人格として数週間を過ごす、という神経のさびれたようなサービスだ。これが大ヒットして予約でいっぱいになっているらしい。一昔前のコスプレブームと中身は変わんない。自分が自分でなくなる非日常を、たまたま「生まれ変わり」っていう時代の憧れにくっつけてみただけなんだ。

これが流行りだしたとき、私の腕が新しくなってからもう10年が経っていた。そしてそれは、私がヴァリアーに居座って10年が経ったということでもある…。



「で、君たちは私を実験台にしたくせに自分たちは生まれ変わると…」

シンナーの売人は、しかし決してシンナーに手を出さない。それがいかに中毒性のある、危険なものだかよく分かっているから。
それと同じだ。
マフィアは政府にアンドロイドの技術を売ったくせして、自分たちは絶対にそれを利用しようとはしない。「俺らはそうそう死なねえし」とよくかわされたものだけれど、分かっている。しなないからだが狂ってるってことが本人たちは誰よりもよく知ってるんだ。

「君にだって自殺用のボタンを特別につけてあげたじゃないか。10年前の中途半端な練炭自殺ごっこより確実にすぐ死ねる素晴らしいボタンをさ」

私の方を一切見ずに、通りすがりのマーモンがそう呟いてすぐどこかへ消えた。目の前で(見た目には)困った様子のスクアーロをもう一度睨みつけてみる。あーだとかうーだとかちいさく唸っている。スクアーロはなぜだか沈黙が嫌いだ。暗殺者なのに。

「あの時、殺してくれればよかったのにって顔してんなあ」

10年前、マーモンに言い放った「私の死んじゃいたい気持ちがわかるっていうの」という台詞は今になって、自分にすら問いかけてくる諸刃の剣になっていた。どうして私はあの時死にたかったの。それでも生きた私は立派なんだろうか。それともただの意気地なしだろうか。

「死にたいって気持ちはいつも衝動的すぎてだめだよ」
「だからみんな死なずに生まれ変わろうとしてる」
「死ぬことはある意味罪だけど、生まれ変わることに罪はないからね」




立ち去り際、スクアーロが「死ぬことも罪じゃねえ」と静かに刺した。確かに、罪だと感じているのは「私たち」の世界ではなく、「私」だけの内的なこころなのかもしれない。






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