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爆発でも起こしたような、けたたましい音だった。暗い客席に、白く穴が空いている。半アーチ状の、扉の形をした出口。

「うちのもんが世話んなったなァ」

ぞっとするような気配に、涙が溢れた。来てくれた。だってもう会えないと思ってた。わたしが、馬鹿やっただけなのに。

「イズル、動くなよ?」

阿鼻叫喚の中、優しい声が真っ直ぐ届く。ひたり、と向けられた銃口に、ぎゅ、と目を瞑った。もういい。もう何でもいい。今死んだっていい。

がしゃん、と落ちた枷と手錠に体が軽くなる。大丈夫。もう走れる。

「待て!こいつはもう1,000万で落札したんだよ!」
「イズルがそんな端金なわけねェだろ」
「なら一億でどうだ?」

わたしの襟首を掴んだ司会者が血飛沫を上げた。ざまあみろ。あの世で謳い文句の練習でもしてればいい。…何だって?

「てめェ…」
「フフフフ…只の家族ってわけでもなさそうだなァ?16番隊隊長イゾウ!」

ぴたり、と止まった体は動く気配がない。何これ。いや、もう怖くもなんともないんだけど。だってイゾウさんがいる。

「イズ!」

今度は天井が落ちてきた。待って。下敷きになったら流石に死ぬ。身動き取れない時にそれはちょっと酷いんじゃ、

「無事か!?」
「…今一番死にそうでした」
「はは、悪ィ悪ィ」

炎に巻かれて、手に絡まるのは、糸。細い、ピアノ線みたいな。

「口閉じてろよ!」
「えっ、ちょっと待っ、何す、」
「イゾウ、行ったぞ!」

待って待って待ってそんなの有りですか無しでしょうだってわたしボールじゃない!天井が床みたいな距離で目の前を通りすぎる。これ…っ、壁に激突したりしない?

「…、ないすきゃっち…?」
「馬鹿。他に言うことあんだろ」

抱き締めてくれる腕が痛い。痛くて痛くて涙が出る。怖かった。肝試しなんかよりずっと怖かった。

「イゾウさん、ありがと」

首にすがりついて、辛うじて言葉が出る。もう無理。声を上げて泣きたい。

「ぅ…、うわああああああん!」

良かった。帰ってこれて良かった。また一緒にいられて良かった。また抱き締めてもらえて良かった。もう、怖かったのなんか、もうどうでもいい。



***

「感動の再会ってやつかァ?」
「お前にはやらねェよ!」
「フフ…頼もしいじゃねェか」
「当たり前だろい!」
「イズがいねェと、誰がイゾウの機嫌とんだよ!」
「ベタ惚れじゃねェか」
「おれたちでもちょっと引くくらいな!」




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