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誰だ。こんな、こんな下らない企画を考えたのは。名乗り出ろ。処す。ちょっと来てくれって言われたからって、ほいほいついてくんじゃなかった。

「辞退で」
「お?何だ、怖いのか?」
「当たり前じゃないですか」

挑発するようなラクヨウさんの発言に同意する。怖いと言葉にするのは非常に癪だが、苦手なものは苦手なんだから仕方ない。怖いもんは怖い。

「ぎゃははは!お化けが怖いとか、ガキと一緒じゃねェか!」
「そうですね。人を見下して笑うのが大人ならわたしは一生子供でいいです」
「そう怒んなって。そんだけ強気な癖に、お化けは駄目かァ」
「痛い」

肩外れる。叩くなら力加減をしろ。そして覚えろ。

太陽は水平線の向こうに沈んで、空には細い月が浮かんでいる。夕飯もそこそこに、誰が言い出したか肝試し。試して頂かなくて結構。弱虫と言うならそれでいい。何でわざわざ悪意に飛び込まなくちゃいけないのさ。

「おれが一緒に行ってやろうか」
「絶対嫌」

肩に乗った腕を払う。絶対。100%悪乗りする。知ってる。あんたはそういう人だ。

「イズが参加しなきゃ面白くねェだろ」
「悲鳴なら他の兄さんが奏でてくれてますけど?」

目の前に広がる黒い森。ここから真っ直ぐ、船のある反対側に抜けろと。嫌だよ。わたしは海岸線回ってく。急がば回れって知らないの?

「何だよ。つまんねェな」
「生憎、面白いのはラクヨウさんだけですから」

靴を脱いで波打ち際を歩く。寄せて返す音。足に当たって跳ねる飛沫。沈む感触。悪くない。妙なことに巻き込まれたと思ったけど、これならとんとんで良いかもしれない。

「…っあ、」
「傷はつけんなよ。大事な商品だ」



***

「おい、イズルどうした」
「イズ?海っ縁回ってくっつってたぞ」
「いつだ」
「いつっつっても…さっきだよ、さっき。戻ってきてねェのか?」
「…見てねェ」
「あー、また一人で遊んでんじゃねェのか?あいつ海好きだろ」
「一人?」
「おう…っておい!イゾウ!」




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