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「イズルはイゾウが浮気したらどうするの?」
「はい?」

浮気したら。そっか、一応付き合ってるわけだから浮気か。…にしたって本人いる前でそれ聞く?別にいいけど。

「おれも聞きてェなァ。イゾウも興味あんだろ?」
「…なくはねェ」
「浮気する予定があるんですか?」
「あるわけねェだろ。馬鹿にすんな」

まあ、浮気する予定ありますとは言わないよね。それも本人にね。流石にそんなこと言われたら怒るわ。やるなら黙って、ばれないようにやってくれ。

「…どうするって言われても、どうしろと」
「何かあんだろ。イゾウを殴るとか?」
「わたしそんな野蛮じゃありません」
「どうだか?」

失礼だなあ。心当たりはあるが。でも、殴りはしないなあ。殴ったところで、わたしにメリットがない。

「たぶん、どうもしないかと…」
「そのまま許しちゃうの!?」
「いや、そんなことはないけど。だって心変わりしたんならどうしようもなくない?わざわざそれを詰るのも面倒くさいし、わたしが惨めになるだけじゃないですか」
「…まァ、そうか?」
「でも隊は移動したいなあ。ハルタさんのとことか楽しいと思うんですけど」
「何でだよ。4番隊も楽しいぞ?」
「4番隊じゃ顔合わせる可能性高いから嫌です。ハルタさん意外と性格悪いから、上手に憂さ晴らしさせてくれそうだなあって」

何か、苛々してきた。咥えたアイスの棒が軋む。何でこんな、嫌なこと考えなくちゃいけないんだ。流石に嫌だぞ。そんなことになるなら、順番を守ってくれ。上手に振ってから余所へ行ってくれ。

「顔も合わせたくないってことか?」
「当たり前じゃないですか。不愉快ですもん。見るのも聞くのも嫌」
「何も言わずにお別れってか。怖ェな、おい」
「そんな顰めっ面しなくても、そんな日は来ねェよ」
「未来のことは誰にもわかりませんから?」
「そんなことになったらおれのとこにおいで?勿論今すぐでも」
「やらねェっつってんだろ」

背中に体重を預けて、イゾウさんが抱え直す。これが無くなるのは嫌だなあ。あっついし、鬱陶しいっちゃ鬱陶しいんだけど。

「…浮気します?」
「今の話でどこにする要素があったんだよ」

…ないけど。今の話を聞いた上でされたらもっと嫌だ。

「イズルもすんなよ?」
「相手がいません」
「だったらいいけどな」

浮気。浮気ねえ。自分のことだから、絶対しないって言えるけど。そもそもどこから浮気?

「因みに浮気した場合は?」
「相手の命はねェな」
「わたしじゃなくて?」
「おれがイズルを傷つけるわけねェだろ」

優しい声で、優しい手が髪を梳く。何か今、すごい狂気じみたこと言わなかった?ちょっとぞっとしたんだけど。



***

「イゾウって重いよね」
「何の話っすか?」
「んー、気持ち?かなあ?あれを愛って言っていいのか、おれとしては疑問なんだけど」
「溺愛でいいんじゃないですか」
「珍しく冴えてるね?」
「…どうも」
「正直、あれと普通に付き合ってるイズも普通じゃないよね。幾ら鈍いにしたってさ」
「そもそも普通なら海賊と恋仲にはならないんじゃ…?」




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