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シャワーに入っても、この時間じゃまた汗ばむ。暑い。泳ぎたい。

「イゾウさん、暑いです」
「おれも暑い」
「なら、ちょっと離れてくれませんか」
「できねェ相談だな」

どのくらい時間が経ったかは知らないけど、影の形が変わったのがわかるくらいの間こんな調子だ。そりゃ、ぎゅってしてって思ったけどさ。こんな長時間されてもへばる。行き交う兄さんも苦笑いだ。助けてよ。

「お前らいつまでそうやってんだよ」
「イゾウさんに聞いてください」
「イゾウ、イズルが困ってるから離れて」
「うるせェな」

ルーカがわたしの手を取ろうもんなら、腕が絞まる。ちょっ、絞まる。内臓出る。何でそんなことになってんのさ。

「あー、アイスでも食うか?」
「食べる」
「ちょっと待ってろ」

サッチさんが中に戻っていって、ルーカが隣に腰を下ろす。イゾウさんはわたしの肩に顔を埋めて動かない。わたしの髪を乾かして、自分のはそのまま放置して。この気温じゃとっくに乾いてるだろうけど、わたしのこと言えなくない?

「イゾウはどうしたの?」
「知らない」
「知らないじゃねェだろ…」

いや、知らないもの。ルーカが心配するって余っ程よ?わたしは言われなきゃわかんない。

「…何で一人で店出た」
「え?…あー、気分が優れなかったから?」
「何でおれに声かけねェんだよ」
「…忙しそうだったから?」
「それ」
「はい?」

声かけなかったのに怒ってんの?そんな、理不尽では?わたしにあの空間に突っ込んでいけと?女の人って怖いんだよ。知らないの?

「…嫉妬してくれたっていいだろ」
「はい?」

嫉妬?嫉妬って言ったか、この人。まさかとは思うけど態とじゃなかろうな。言っとくけど、不愉快ではあったぞ。

「イゾウさん、知ってますか。嫉妬っていうのは自分が相手より上の筈なのにまるで相手の方が優れているかのように扱われているから起こるんであって、自分が相手より劣っていることを認識している場合は起こり得ないもよっ、」
「怒るぞ」
「おこってうやあいれすか」

痛い。頬っぺ痛い。だって、そうじゃん。嫉妬って自分が優遇されるべきと思ってる時にされないからするんでしょ。違うの。

「不愉快ではありましたよ。だって、その間放置されてるわけですし」
「だからって置いてくんじゃねェよ」
「そんなこと言われたって…」
「イズは自己評価低いからなァ」
「普通です」

余計なこと言うな。戻ってきてたならアイスをください。いただきます。

「イゾウは食うか?」
「イズル、一口寄越せ」
「…全部食べないでくださいよ」
「イズルの分減らさないでよ。おれのあげようか」
「いらねェ」
「イゾウにじゃないよ、イズルにだよ」
「だからいらねェっつってんだろ」

何でイゾウさんが断んの。別にいいけど。冷たい。美味しい。もう一個食べたい。



***

「イズもイゾウには甘いわよねえ」
「甘いというより、弱いの方がしっくりくるんじゃない?」
「全く、一体どこまで気がついてるのかしら」
「首についてる痕とか?」
「そんなの、気づいてるわけないじゃない」




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