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少し不便だ。手にぐるぐる包帯を巻かれ、濡らすの禁止。力入れるのも禁止。つまり掃除洗濯繕い物、何にもできない。まあ、わたしができなくなったところで何の支障もないし、わたしは楽できていいっちゃいいんだけども。 朝ご飯はナースさんたちと食べている。起こしてもらって、一緒に食べに行く。自分で起きろって?できるならやってる。だって充電切れてるし。 「手の具合はどう?」 「痛くないって言ったら嘘ですけど、そんなに気にならないです。ちょっと動かしづらいくらいですかね」 「当り前よ。動かさない為に巻いてるんだから」 そう言って、リリーさんはきれいに笑う。本当に美人さんばっかり。同室(仮)のリタさんも、エルミーさんも。 そこにまた美人さんがやってきた。着物を着て、髪も結い上げて。…あ、でも男の人だな。何となく、体格が。女の人だったら申し訳ねえが。 「うちのが悪かったな」 「…どちら様のことですか?」 「イズ、彼はイゾウ。ロハンの隊長よ」 「あ、どうも。いつもお世話になってます」 立ち上がって頭を下げた。要するに上司か。そんな態々。何かされたっけ? 「あいつがぼけっとしてた所為で痛い思いさせちまっただろ?悪かった」 「え、いえ、あれはわたしの自業自得ですから」 「…手は痛むか?」 「痛くないって言ったら嘘ですけど、そんなに気にならないです」 「そうか」 そう言って、少し眉を寄せて掌を撫ぜる。別にいいのに。あれは鰻に引っ張られたわたしと、竿を握ってられなかったわたしと、波に流されたわたしの所為だ。ロハンさんに突き落とされたわけじゃない。 「何かあったら遠慮なく言いな」 「あ、はい。ありがとうございます」 気持ち首を傾けて会釈すると、…何だっけ。イゾウさん?はどっか行った。それだけの為に態々来たのか。暇か。それとも不審者の様子見か。今更? 「…何かやらかしました?」 ご飯の続きを食べ始めたら、お姉様方からの視線が熱かった。やめてよ。そんな大層な顔じゃないんだから。 「あなた、本当に物怖じしないのね」 「そうですか?」 「イゾウと初対面で、あんなに普通に話すとは思わなかった」 「え、そんな怖い人なんですか?」 「怖いと言うか…サッチみたいな気さくさはないわよね」 さっちって誰だ。どれだ。 思ったことが顔に出てたのか、リーゼント、と言葉が返ってきた。鰻の時のあの人か。…気さく、ねえ?ちゃらそうだとは思った。 「それにあなたからしたら相当大きく見えるんじゃない?」 「目線を合わせるとか、そういう優しさは無いものね」 「んー…でも、皆さん大体わたしの二倍くらいあるじゃないですか。毎日見てるから慣れたんですかねえ」 「二倍はないわ」 「精々1.2〜3ってとこね」 「感覚的には二倍なんですよー」 あとはあれだな。船長さん見たからな。あの山のような体格を思うと、まだ平気だなと思う。 もう何日目か。数えるのも忘れた。ここは知らないことが沢山あって、毎日違うことがいっぱいあって楽しい。けど、きっとそろそろお別れだ。 *** 「見てたよ?何話してたのさ」 「大した事じゃねェよ。うちのが悪かったなって挨拶しただけだ」 「イゾウがそんな気回すなんて珍しいじゃん。何で?」 「何でもねェよ。只、随分気にかけてやってるみたいだから、どんな奴かと思ってな」 「ふーん。ま、ロハンだけじゃなくて、気に入ってる奴は何人かいるみたいだけどね。働き者の“いい子”だってさ」 「へェ…そりゃまた、随分上手くやってるみたいだな?」 |
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