05


入港した島は、船長さんのどくろが掲げてあった。縄張りと言うらしい。おかしいと思ったんだ。海賊って基本的に犯罪者だろうに、堂々と港から入るんかって。この島では特別、船長さんの船が歓迎されるらしい。お陰様で、町はちょっとしたお祭り騒ぎだ。

さて、どうしようか。あの言い方によると、わたしはここで生きていくらしい。生きていかなくちゃならないらしい。言葉は通じる。けど、金の単位が違う。ドルじゃない。ユーロでもない。勿論元でもない。両替は、たぶん無理だ。
人のいる島ではあるけれど、どちらかと言うとサバイバルスキルが求められそうな感じ。この野郎。嵌められた気分。

わたしのなけなしの持ち物と言えば、着の身着のままの服。よくもまあやりくりしたもんだと自分を褒めてあげたい。それから鞄に入ってた携帯、は電池が切れてる只の板。あと財布と、学生証にティッシュとハンカチ?筆記用具とか?筆記用具を武器にしてたキャラクターもいたけど、生憎ホッチキスはないなあ。円の金なんて、もうあってもしょうがないし。アルバイト募集、みたいな貼り紙でもあればいいんだけどな。大体のことはそつなくこなすのに。

見知らぬ土地を当てなく歩き回るのは、結構疲れる。見知った顔ともすれ違って、余計に。かといって座り込む場所もない。公園とかないの?公園はなくてもいいから、ベンチとか。もしくはガードレール。車が見当たらないから望みは薄いけど。

入港したのは昼過ぎ。ざっくり合わせた腕時計を頼るなら、二時過ぎくらい。もう短針は五を過ぎて、日が暮れ始めていた。昼と夜の境目。店が入れ替わる時間。…あんまり、アポなし突撃みたいなのはしたくないんだけどなあ。

「あっ、あの!」

店の前に看板を出した人間を見つけて声をかけた。ちょっとひっくり返ったのはご愛敬で。がっしりとした強面の、エプロンをした…お兄さんと言っておこう。この数日で、強面にもずいぶん慣れた。慣れって怖い。

「あの、働き口を探してるんです。募集してませんか」
「…あんた幾つだ」
「22です」

両手の指を二本ずつ立てれば、上から下へと眺め回される。海外じゃあ日本の大人も中学生って言うもんね。海外どころじゃないけど。にしたって不躾だけどな。流石に。

「言っておくが、うちは酒を出す店だ。破落戸みてェな奴らが来る所で、あんたまともに働けんのか」
「…大丈夫な気はしますけど、やってみないことには何とも言えないですかね」

あー、見栄張ったかも。破落戸なんて縁ないし。でもここ逃して次があるかわからんしな。
些か大分不安を抱えている間に、お兄さんは何も言わずに店の中に入っていった。駄目?不採用ならそれで、他の店探さなきゃいけないんだけど。

「あのー、もし不採用なら、」
「不採用とは言ってねェ。そこまで言うならやってみな」
「ありがとうございます!」

奥に入ってったお兄さんについて行ったら、エプロンを渡された。紐が余る。うける。鞄と上着はレジの裏。言われた席に物を持って行けと。飲食店の仕事は、どこもそう変わらないらしい。
さてさて、これが地獄の蓋だったらどうしよう。



***

「あっさり降りてったなァ」
「まァ、海賊船なんて好き好んで乗るもんじゃねェだろ」
「何だよ、お前、寂しいなら取っ捕まえてくりゃいいじゃねェか」
「あんな小さい奴に海賊船に乗れなんて言うのは酷だろ…」
「あんなに小さくても22だけどなァ」
「は!?…あっ、サッチ隊長。今何て言いました?」
「あいつ、あれで22歳なんだってよ」
「まじっすか!ほら行け!取っ捕まえて乗せちまえ!」
「おい、ロハン!固まってる場合じゃねェぞ!」




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