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今日のお夕飯はBBQだそうで。シャワー入って戻って来たら、既に盛り上がっていた。というか、出来上がっていた。幾らなんでも早い。兄さんの将来が心配。 「お、イズ!」 火の前を陣取って、エースさんが手を振る。ゾノさん…お気の毒に。エースさんが満足するまで焼くのか。腱鞘炎とかにならない? 「何だ、着替えてきたのか?」 「そりゃ、まあ。流石にもう泳ぎませんし」 「ずっと泳いでたもんなァ」 「…楽しくて」 改めて言われるとちょっと恥ずかしい。年甲斐もなくはしゃいでしまった気分。わたしだけじゃないけどな! 「いただきます」 「熱いから気をつけろよ」 「はあい」 BBQ初めて。その辺に座って冷めるのを待つ。湿度が低いのか、夜はそんなに暑くない。涼しくもないけど。 「髪は拭かなくていいのか?」 「そのうち乾くんで」 「リリーたちに怒られねェか?」 「怒られるから内緒でお願いします」 「それは、…できそうにねェな」 「はい?」 裸足に触る砂の感触に遊んでいたら、ゾノさんの視線がわたしの背後に逸れた。何。姉さんたちは父さんのとこにいたけど。 「ちゃんと乾かせって言ったろ」 「…そう言えば姉さんだけじゃなかったですね」 「あァ?タオルは」 「置いてきました」 あっ、舌打ちした。いいじゃん。風邪なんか引くような気温じゃないもの。お腹空いたんだってば。 「…イゾウさん食べます?」 「それでおれの機嫌とってるつもりか?」 「そういうつもりはありませんけど…」 ほら、お腹空くと苛々するから。食べないならわたし食べるけど。…まだちょっと熱い。けど美味しい。これ何の肉? 「うわっ、何、」 「おれの使いさしだが我慢しろよ」 「いいですってば。そのうち乾きます」 「散々海水に浸かった挙げ句、放っといたら傷むだろうが」 「傷むかもしれませんけど…」 言うてイゾウさんだって濡れてるじゃないですか。わたしに構うより、ご自分の髪を乾かしたら如何です?折角きれいなんだから。 「お、イゾウも来たのか」 「お早うございます」 いつもの如く、流石に火には突っ込まなかったけど、串を両手に眠ってたエースさんが起きた。かと思えば、持ってた串から瞬く間に食べ物が消える。両手に、って一本ずつ持ってたわけじゃない。その口のどこに入るの。ちゃんと噛んでるの? 「何だァ?イズ、嬉しそうだな」 「そうですか?」 「あァ、何か良いことでもあったか?」 「…ふふ、イゾウさんに髪拭いてもらうの、好きだなあと思って」 「へェ?」 それにご飯は美味しいし。風が気持ちいいし、星はきれいだし。何にやにやしてんの。ゾノさんお代わりください。 「…態とやってんじゃねェだろうな」 頭上から、不機嫌な声がした。串を差し出したら器用にかぶりつく。まだできたてっぽいけど。火傷とかしない? 「何がですか?」 「髪」 「ああ…まあ、拭かなかったら誰か拭いてくれるかな、とは思ってます」 「お前なァ…」 「自分じゃ拭かないし、拭いてもらった方が楽だし…何か、頭撫でられるの好きみたいなんで」 言ってて恥ずかしくなってきた。子供かって。でもそんな、頭撫でてもらう経験なんか多くないじゃん。大きくなったら尚更。誉めてもらえること自体が減るのに。 「犬みてェなこと言うなァ」 「猫の方が嬉しい」 「いや、そういう問題じゃなくてよ」 わかってるよ。そんな呆れた顔しないでよ。食べてから喋りなよ、器用だな。イゾウさんの手が髪を梳く。これ好き。乾いた感じですか。 「次からタオル持って来な」 「え、荷物になるから嫌です」 「違ェよ。髪乾かしてやる」 「はい?」 振り返れば、イゾウさんは自分の髪を拭いている。すみませんね。自分のこと後回しにさせちゃって。 「髪乾かしてやるから、おれんとこに来いって言ってんだよ」 「いや、そんな毎回してもらわなくて大丈夫です」 「自分じゃやんねェんだろ?」 「姉さんがやってくれますから」 寧ろ、だから自分でやらないと言える。…怒んないでよ。そりゃ、自分のことくらい自分でしろよって思うけどさ。 「おれがイズルの髪を乾かしてやりたいんだが?」 「…意外と面倒見るの好きなタイプですか?」 「いやいやいや、そうじゃねェだろ」 「だってエースさんは別にやりたかないでしょ」 何がそうじゃないのかご教授下さいよ、エース隊長。確かに面倒見はいいよね。何だかんだね。放置しそうでしない。髪もそうだけど、最初の時服買うの一緒に来てくれたりね。未だに持て余してるけど。 唸るエースさんを余所に、イゾウさんがわたしを胡座の上に抱え込んだ。何か盛大な溜め息を吐いてる。やめてくれませんかね。わたしが何かやらかしたみたいじゃん。 「…恋人の髪に他のやつが触ってんのが気に食わねェ。って言ったらわかるか?」 「は…?えっ、あっ、そういう…?いや、姉さんですけど?」 「関係あるか」 はー…あー、ね?なるほど?いや、あんまりピンときてないんだけど。何だっけ。シャンクスさんに嫉妬してたこととかあったなあ。あれはまだ、納得できたけど。姉さんも対象なの。そんな無茶な。 「来るな?」 「えっ、あー…はい。気が向いたら」 「イズル」 えええ…いや、でも、だって。姉さんに何て説明すんの。ゾノさん。さっきから黙りですけど、そろそろ出番じゃないですか。可愛い妹が困ってます。 「好きなんだろ?」 「…、何がですか」 「おれに髪拭かれんの」 「…好きですけど」 「ならいいだろ。毎日拭いてやるよ」 「姉さんに拭かれるのも好きっ、ちょっ、まってっ、」 ぎゅう、と力が強くなった腕と、首筋をなぞった舌。やだやだやだ。何考えてんの馬鹿じゃないの!それっ、やめ、 「わっ、わかりました!わかりました行きます!むりっ、ギブギブギブ!やめ、て…っ、」 「容赦ねェなァ」 他人事じゃねえわ、助けて!…何笑ってんのさ。犯人あんただよ!離して! *** 「マルコ。あれいいのか?」 「あァ?…あいつら、何やってんだよい」 「あれが平気な時点で、イズもイゾウのこと相当好きだと思うんだけどなァ」 「まだ自覚ねェのかよい」 「あったらもうちょいましだと思わねェ?」 「…それもそうだねい」 「まァ、イゾウからすりゃ関係ねェよな。晴れて堂々と手ェ出せるわけだし」 |
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