72 |
空も海も、鮮やかな橙に染まっている。にも拘わらず、浜には遊び呆ける兄がいっぱいだ。それに混ざってるわけだから、人のこと言えないけど。心はいつまでも少年なのです。 「お前、まだ泳ぐつもりか」 「もうちょっとだけ?」 「さっきもそう言ってたぞ」 「…だって楽しくて」 付き添いのロハンさんが、浮き輪に掴まったまま溜め息を吐く。ちょっと前までルーカがいたけど、サッチさんに連れられてった。エースさんとかマルコさんは泳げないから、ビーチバレーみたいなのしてたけど。あれはビーチバレーじゃない。えらいおっかないボールだった。誘われたけど、絶対やらない。 「ロハンさん、先上がっていいですよ」 「お前一人にできるか」 「大丈夫です。いざって時に来てもらえれば」 「来る間に食われるだろうなァ」 そうですか。ロハンさんも大変そうね。わたしみたいなのの面倒見なきゃならないなんて。お気の毒様です。 「じゃあ、泳いできていいですか」 「…あァ、わかったよ。行ってこい」 「やったあ」 とぷん、と。もう何度目か。だって、岩肌を蹴る感触も、波に遊ばれる感覚も、魚がすぐ側を通りすぎるのも。何度やっても何度見ても楽しい。海の中で体をひっくり返せば、昼とは違う色の光が差している。きれいだ。海ってこんなにきれいなんだ。…あ、 「ロハンさん!」 「うおっ、…何だよ。何かあったか?」 「今、こう、目の前を…ちょっと見て。見て見て見て!」 「あァ?」 些か面倒くさそうに、わたしと一緒に潜る。絶対後悔しないから。どうしても誰かと共有したい。底まで泳いで振り返る。反射してるのか、発光してるのか。光の粒が泳いでいく。マリンスノーとかじゃない。何あれ。 「見ました!?」 「あ、あァ…すげェな」 再び浮き輪に掴まったロハンさんを余所に、また海に潜る。すごい。光が生きてる。イゾウさんにも見せたい。あの人、海入らないと思うけど。銃が濡れるからって言ってた。流石にそのくらいの聞き分けはある。 いつの間にか、空の端は緑色になっていた。通りで光が映えるわけだ。星空みたいになってるの。上から見たんじゃ、殆どわからないのに。 「イズ、そろそろ上がれ」 「…上がんなきゃ駄目ですか」 「夜の海は危ねェんだよ」 「…知らないわけじゃないですけど」 もっと見たい。もっと見てたい。欲を言うなら、…いやいやいや、待てわたし。待て、だ。ちょっと気分が高揚してるだけ。 「まだ入ってたかったら、イゾウ隊長に言え」 「…ごめんなさい。ありがとうございます」 流石に駄目って言うだろうなあ。わかってる。一応わかってるんだよ。わかってるのと聞き分けの良さは別ってだけで。 *** 「いいなァ。楽しそうだ」 「沈むのなら得意だろい」 「マルコもだろ?」 「おれも泳ぎたい」 「ジョズが溺れたら、助けんの大変そうだな!」 「むう…」 「あ、今溺れたらイズが助けてくれんじゃねェか?」 「やめてやれ」 「蜂の巣になりてェのかよい」 |
prev / next 戻る |