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嫌だって言った。わたしは嫌だって言った。そんな、だって、こんな。せめて…せめてさ?洋服っぽい形のとかもっと普通のあったじゃん?ねえ?

「着たわね?」
「ひっ、開けないで!」
「似合うじゃない。やっぱりそれがいいわ」
「よくない!」

容赦なく会計を進めるリリーさんに叫ぶ。こんな露出の高いの着ないからな。着ても見せないからな!

「…あの、手を離して頂けますか」
「離したら閉めるでしょう?」
「閉めなきゃ着替えられない」
「着替える必要ないんじゃない?」
「この格好で歩けと!?」

エルミーさん、さっきのまだ怒ってる?ごめんなさいってば。もうしませんなんて言わないけど。

「そのまま上に着たらいいじゃない」
「…わたし、この水着嫌」
「なら裸で泳ぐのね」

…幾らなんでも酷いのでは?怒ってるの?最早何に怒ってるの?

「わたしたちが選んだ水着なんだけど、イズは気に入らなかったかしら?」
「…、それは卑怯」
「どんな手でも使うわ。海賊だもの」
「気に入る入らないの前に、着れる自信がないの!」
「大丈夫よ。サイズもばっちり」
「違う!そりゃあ、姉さんたちみたいなスタイルだったらわたしも着るかもしれないけど!」
「そういうこと言う人は、どうなったって着ないわよ?」
「わかってるなら許してよ!」
「折角似合ってるのに、諦める道理はないわ」

うぅ…泣くぞ。何でそんな、何でそんなごり押しするのさ。誰得よ。誰も得しないじゃない。眺めて眼福なんてことないじゃない。

「…せめてTシャツをください」
「着てきたじゃない」
「黒いTシャツ!」
「んー、白しかないわねえ」
「嘘!だってわたしの目の前にある!」
「ああ、違うのよ。選択肢にないの」
「黒じゃあ、水着が見えないものね」
「見せたく!ないの!」
「思ってたよりもごねるわね…」

ごねる?ごねるって…いや、ごねてるけど。正当な主張じゃない?だって着るのわたしよ?着る本人の意見てもうちょっと尊重されて然るべきじゃないの?

「じゃあ、イズ。これとこれ、どっちがいい?」

白と黒のTシャツ。これが、本当に只のTシャツなら黒一択なんだけど。メッシュになってる。つまりは透ける。透けるっていうか、見える。白よりえぐい。そんなの着てないのと一緒じゃないか。

「…どっちも嫌」
「ふふ、もう…そんな可愛い顔しないの。早く上に着ちゃいなさい。遊ぶ時間無くなるわよ」

何さ、楽しそうに笑っちゃって。最近気づいたんだ。姉さんはわたしが困ってるのを見て楽しんでる。姉さんが楽しそうなのは嬉しいけど、わたしも楽しいことにしてほしい。



***

「イズルの水着買いに行ったんじゃねェのか」
「買いに行ったわよ。あの下に着てるの」
「…あのTシャツは?」
「黒Tがいいって言うのを妥協したのよ?水着姿は見せたくないって」
「でも、イゾウはTシャツで透けてる方が好みかしら?」
「正直、潔く脱いでる方が健全だな」
「そうね。わたしもそう思うわ」




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