70


かけて、かけられ。もう見事にずぶ濡れだ。結局上着も脱いだから絶対焼けた。

「着替えたら?」
「大丈夫。どうせまた濡れるし」
「またって、」

錨を下ろす振動が聞こえた。つまりは島に着いたわけだ。待ってましたとばかりに上陸して行く兄。と言っても、浜まで少し距離があるから、場所を間違えると海に沈むんだけど。
兄に習って、わたしも手摺を蹴った。わたしの場合、間違えたら捻挫するな。遠くでエルミーさんが叫んでたけど。ごめん、ちょっと答えられない。

高く上がった水飛沫。は、ちょっと見てないけど、そんな感じの音と一緒に頭まで海に浸かる。一面の青。どこまでも見渡せそうな、透明な青。

「何考えてるの!」
「エースさんがいいって言ったあ」

海面に顔を出せば、また青。畳まれた帆が雲みたいだ。あ、何かギャラリーが増えてる。そのうち、何人かが同じように手摺を蹴った。…あんなに高く水飛沫上がったのかな。

「エルミーが怒ってたぞ」
「何で?」
「危ねェからだろ?」

危ないって…いや、危なくないことはないと思うけど。二回ばっかし、あそこから落ちてるし。泳げなくないし。

「怒ってるなら戻るのやですねえ」
「あっ、こら」

とぷん、と海に潜る。足はつかないけど、そこまで深くはない。底が見える海なんて初めて。岩場を蹴ったら、魚が飛び出してきた。ごめんごめん。

「イズ!」
「ごめんなさい?」

一頻り泳いでから船に戻ったら、エルミーさんが仁王立ちしていた。そんな姿もきれいです。こう、すらっと伸びた脚とかね。

「もう、わかってないでしょう!幾ら浅くたって、海王類もいるのよ?」
「…じゃあ、丸呑みされるように気をつける」
「そうじゃないでしょう!」

ごめんて。頬っぺを両手でぐりぐり潰されて、…それご褒美。怒った顔もきれいなんて、神様不公平が過ぎやしませんか。

「ちょっと、聞いてるの?」
「きいてうきいてう」
「…取り敢えず、着替えてらっしゃい。海水につけたまんまじゃ、服が傷むわよ」
「まだ泳ぎたいんだけど」
「それなら尚のこと、早く着替えてくるのね。水着買いに行きましょ」
「えっ…」

水着?水着って言った?いらないよ。着たくないよ。姉さんたちみたいなないすばでぃじゃないんだから。やだよ。



***

「随分楽しそうだな?」
「楽しそうじゃないわよ!グランドラインがどういうものかわかってないのかしら!」
「大丈夫だろ。船からそう離れちゃいねェ」
「…あんまり甘やかしすぎるのもどうかと思うわよ?」
「耳が痛いねェ」




prev / next

戻る