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今日も海は荒れている。ここ最近、ずっとご機嫌斜めだ。生け贄でも捧げるか。

「おはよう、イズル」
「…おはようございます」

毎朝毎昼毎夜。そりゃあ、厨房を担う4番隊。嫌でも顔が合う。余りにも面倒くさくて、ご飯を抜こうとしたら怒られた。わたしが食べに来てないのにルーカが気づいて、それがサッチさんに伝わり、姉さんに報告された。そういう時の姉さんは怖いんだ。いや、美味しいよ?美味しいご飯大好きよ?第一印象が最悪だっただけで、悪い人じゃないのもわかってるけどね?

「イズったらモテモテね?」
「…別にモテてない」

好きだなんて言われてないもの。何か薄らそんな気配はあるけど。言われても困る。わたしはイゾウさんで手いっぱい。そんな二つも三つも考えてらんないの。あんまり難しいことさせないでくれ。

「リリーさん、好きって何?」
「あら、わたしはイズのこと好きよ」
「そりゃ、わたしだって…姉さんも兄さんも皆好きだけど」
「ふふ、そうねえ…イゾウのは何だと思ってるの?」
「…珍しい玩具を見つけた感じ」
「玩具って…それ本人に言っちゃ駄目よ」
「否定しにくいのがイゾウの悪いところね」

せやろ。否定できなかろ。けど、一応。そういうのじゃないらしいっていうのはわかってる。納得は、あんまりしてないけど。だってわかんないんだもの。好きって何。

「そもそも理解してないものをわかれって無茶じゃない?」
「そこまで難しく考えなくていいと思うんだけど」
「理屈で納得いかないと駄目なんです」
「難儀な性格ね」
「わたしもそう思う」

何がそんなに気を引くんだ?今まで引っ掛かるような人なんか一人もいなかったのに。例えばわたしが男だって、わたしみたいなのに惹かれないぞ。

「ねえ、イズ。イゾウには何て言われたの?」
「何てって?」
「どこが好きとか、そういうの。聞いたことないの?」

…あー、何だっけ。いっぱいなんか…あれは可愛いの話だったか。

「何か全部可愛いみたいなことは言われた…かな?」
「ちゃんと覚えててあげなさいよ」
「だって、何かつらつらつらっと言われて。わかんなくなっちゃった」
「他人事みたいに言わないの」
「いや、正直他人事よ?特別可愛くないのは、ちゃんと自分でわかってるもん」
「あら、イゾウだけじゃなくて、わたしたちが言ってることも信じてないの?」
「信じてないというか、…信じてないのかなあ。何か現実味がなくて」
「イズの悪いところはそれね…」
「何て言ったら伝わるのかしら?」
「だって…生まれてこの方、わたしにそんな需要があったことなんて一回もない」
「それはイズの周りにいた男に見る目がなかったのよ」
「若しくは可愛い過ぎて声をかけられなかった」
「んなわけないじゃん…」

どうも姉さんたちは贔屓目が過ぎる。何をそんな買いかぶるのさ。



***

「面白いことになってるね?」
「あァ?」
「イズル、最近はルーカとも普通に喋ってるみたいだよ?」
「…あのクソガキ」
「自覚のない恋人だと大変だね?その上、イズルは優しいし?」
「…」
「ハルタ、やめろい。これ以上機嫌悪くされちゃァ、収拾がつかねェ」
「…別にこの嵐はイゾウのせいじゃないからね?」




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