62


まじかよ。聞いてねえよ。ふざけんなよ。そんな、一日寝転けてたからってそんな仕打ちある?許可したの誰よ。なんて、父さんに文句は言えないけど。

「気づいたんだ。イズルが島に残らないなら、おれが船に乗ればいいんだって」
「密航ですか」
「船長には挨拶したよ?」
「…さいですか」

昼時、出航直後の食堂。仕事を放っぽって、わたしの隣でにこにこしているこのイタリア人。怒れよ隊長。こいつ仕事さぼってるぞ。正面に座るロハンさんを振り返ったら、視線を逸らされた。おい、こら。説明してよ。わたしはこいつとお近づきになるつもりはないぞ。

「あー、4番隊に入ったルーカだ」
「…わたしが島に残れば良かったってことですか?」
「どんな理屈だよ。…まァ、頑張れ」

おいこら。投げるな。他人事か。いや、他人事だけど。助けてよ。好きとか嫌いとかその前に、兎に角第一印象が悪いんだよ。

「よろしくね、イズル」
「…宜しくする予定はないけど」
「でもこれからは毎日一緒だよ」
「千人を超える船じゃ会わないことなんかしょっちゅうですよ」
「じゃあ、おれが会いに行くよ」

…しつこい。ああ、そうですか待ってますね、なんて言うわけないのに。何なんだ。そもそも何なんだ。

「わたしにどうしてほしいんですか」
「イズルはイズルのままでいいよ?」
「…あー、じゃあ、何がしたいんですか?」
「イズルのことが知りたいんだ。こんなにチャーミングな女の子を放っておくなんて、男として有り得ないよ」

は…はあ?どっかで誰かが口笛を吹いた。どこのどいつだ。覚えてろ。ルーカの言葉に賛同するなら、お前は有り得ない男だからな。

「仕事に戻られたら如何ですか」
「大丈夫。やることはちゃんとやってるから」
「そうそう。意外と優秀なのよ、こいつ」
「意外とは余計だよ」

…はあ?何、いつの間にそんな仲良くなられたんですか。サッチさんまで居座んないでよ。持って帰って。

「どうだ?イゾウから乗り換えねェか?」
「…何の話ですか」
「やっぱり自分とこのやつが一番可愛いしなァ」
「おれはいつでもいいよ?」
「だから何の話ですか」

目の前でロハンさんが頭を抱えている。いや、頭抱えたいのわたし。見て見ぬふりしたのも見捨てたのも忘れてないからな。

「…おれのいねェ間に、随分と楽しそうだな?」
「うん。とっても楽しい。だからイゾウはもう暫く外してて?」
「あァ?」

何。わたし当事者じゃなかった?それなら、どうぞ自由に勝手にして頂いて構わないんだけど。ここでするな。ご飯の邪魔。

「やっぱりうちに寄越せ」
「断る。ルーカがいてくれて助かってるんでな」
「おれはどっちでもいいよ?イゾウの所に行ったら、イズルと一緒にいられる時間が増えるもの」
「ごちそうさまでした」

有名な諺がある。三十六計逃げるに如かず。楽しそうで結構。巻き込まないでくれ。



***

「お前、今何つった?」
「おれを船に乗せてって言ったんだよ?」
「いや、聞こえなかったわけじゃねェよ。お前、自分が何言ってるかわかってんのか?」
「勿論。君たちの船に乗れば、おれはイズルと一緒にいられるってことだろ?」
「面白いこと言うね?イズルの為に海賊になろうって言うの?」
「そのくらい何てことないよ。今イズルとお別れしたら、絶対後悔するもの」
「いいじゃん。サッチ面倒見てあげれば?」
「お前はそういうやつだよな…」




prev / next

戻る