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まじかよ。聞いてねえよ。ふざけんなよ。そんな、一日寝転けてたからってそんな仕打ちある?許可したの誰よ。なんて、父さんに文句は言えないけど。 「気づいたんだ。イズルが島に残らないなら、おれが船に乗ればいいんだって」 「密航ですか」 「船長には挨拶したよ?」 「…さいですか」 昼時、出航直後の食堂。仕事を放っぽって、わたしの隣でにこにこしているこのイタリア人。怒れよ隊長。こいつ仕事さぼってるぞ。正面に座るロハンさんを振り返ったら、視線を逸らされた。おい、こら。説明してよ。わたしはこいつとお近づきになるつもりはないぞ。 「あー、4番隊に入ったルーカだ」 「…わたしが島に残れば良かったってことですか?」 「どんな理屈だよ。…まァ、頑張れ」 おいこら。投げるな。他人事か。いや、他人事だけど。助けてよ。好きとか嫌いとかその前に、兎に角第一印象が悪いんだよ。 「よろしくね、イズル」 「…宜しくする予定はないけど」 「でもこれからは毎日一緒だよ」 「千人を超える船じゃ会わないことなんかしょっちゅうですよ」 「じゃあ、おれが会いに行くよ」 …しつこい。ああ、そうですか待ってますね、なんて言うわけないのに。何なんだ。そもそも何なんだ。 「わたしにどうしてほしいんですか」 「イズルはイズルのままでいいよ?」 「…あー、じゃあ、何がしたいんですか?」 「イズルのことが知りたいんだ。こんなにチャーミングな女の子を放っておくなんて、男として有り得ないよ」 は…はあ?どっかで誰かが口笛を吹いた。どこのどいつだ。覚えてろ。ルーカの言葉に賛同するなら、お前は有り得ない男だからな。 「仕事に戻られたら如何ですか」 「大丈夫。やることはちゃんとやってるから」 「そうそう。意外と優秀なのよ、こいつ」 「意外とは余計だよ」 …はあ?何、いつの間にそんな仲良くなられたんですか。サッチさんまで居座んないでよ。持って帰って。 「どうだ?イゾウから乗り換えねェか?」 「…何の話ですか」 「やっぱり自分とこのやつが一番可愛いしなァ」 「おれはいつでもいいよ?」 「だから何の話ですか」 目の前でロハンさんが頭を抱えている。いや、頭抱えたいのわたし。見て見ぬふりしたのも見捨てたのも忘れてないからな。 「…おれのいねェ間に、随分と楽しそうだな?」 「うん。とっても楽しい。だからイゾウはもう暫く外してて?」 「あァ?」 何。わたし当事者じゃなかった?それなら、どうぞ自由に勝手にして頂いて構わないんだけど。ここでするな。ご飯の邪魔。 「やっぱりうちに寄越せ」 「断る。ルーカがいてくれて助かってるんでな」 「おれはどっちでもいいよ?イゾウの所に行ったら、イズルと一緒にいられる時間が増えるもの」 「ごちそうさまでした」 有名な諺がある。三十六計逃げるに如かず。楽しそうで結構。巻き込まないでくれ。 *** 「お前、今何つった?」 「おれを船に乗せてって言ったんだよ?」 「いや、聞こえなかったわけじゃねェよ。お前、自分が何言ってるかわかってんのか?」 「勿論。君たちの船に乗れば、おれはイズルと一緒にいられるってことだろ?」 「面白いこと言うね?イズルの為に海賊になろうって言うの?」 「そのくらい何てことないよ。今イズルとお別れしたら、絶対後悔するもの」 「いいじゃん。サッチ面倒見てあげれば?」 「お前はそういうやつだよな…」 |
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