01


連れていかれた部屋には、それはそれは背の高い人が座っていた。背が高いというか、でかい。決定打と言ってもいい。こんな大きな帆船があることも、当たり前のように武器を持っていることも、その考えに辿り着く要因ではあるけれど。

ここはわたしの知る、わたしの世界ではないらしい。

「何だァ?お前ェは」
「渡イズル22歳、東京出身の一般庶民です」
「おい、さっき言ってたのと違うじゃねェかよい」
「いや、大学生って通じないみたいだったんで」

一々説明しろと?やだよ。面倒くさい。

「あいつらが言うには、船内から出てきたっていうんだが…」

ちらりと寄越された視線に知らぬふりをした。
玄関を出たらあそこだったんです。なんて、聞かれない限り申し上げませんけど。信じていただかなくても結構ですけど。

高い位置から見下ろしてくる目はとても静かで、きっとこの人はわたしなんか簡単に捻り潰せるのだろう。あんまり痛い思いはしなくて済みそうだ。

「グララララ、面白ェ。お前ェ、行く当てはあんのか?」
「…いえ、たぶんないです」
「たぶんって何だよい。トーキョーってのは島の名前じゃねェのか?」
「東京は街の名前ですけど、…たぶん帰れないんで」
「だからそのたぶんってのは何なんだよい」
「絶対なんて言い切れるわけないじゃないですか」

何を仰るやら。わたしは元の世界の一割だって説明できないぞ。絶対。

「この船は海賊船だ」
「…はあ、そうなんですか」
「随分あっさりしてるねい」
「えっ、そうなんですか!?怖い!」
「嘘つけ!」
「…わたしの反応がご不満なのかと思って」
「随分と肝っ玉の据わった娘っ子だなァ」

にやりと細められた目に、曖昧に笑って返す。
そんなそんな。滅相もない。内心びびってますよ。殺されるかもって。その時はどうか一思いにお願いします。さくっと。ぺしゃっと。

「近くの島まで乗せてやる。お前ェが平気なら、なァ?」
「わたしより皆さんが嫌がるのでは?」
「…オヤジの言いつけなら、破るやつはいねェよい」
「…じゃあ、よろしくお願いします?」

近くの島だって。そこでどうしろと言うのか。
と言うか、例えばよろしくしなかったら、わたしどうなんの?選択肢なくない?



***

「そういうわけだから、お前ら変なちょっかいかけんじゃねェよい」
「部屋はどうすんだ?」
「ナースのとこだろ」
「近くの島って、航路はどうすんの?」
「航路は変えねェ。あんまり治安の悪い島で下ろすわけにもいかねェだろい」
「妙な素振りを見せたら?」
「…そん時はわかってんだろい」




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