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既に空は赤く染まって、海の向こうに沈もうとしていた。一つ、二つ、横道を入って角を幾つか曲がる。宿取ったんだって。こんな、旅行みたいなの久しぶり。いや、旅は毎日してるんだけど。

姉さんの後について、旅館ぽい建物の暖簾を潜ると、中居さんが出迎えてくれた。あれ、兄さんもいる。貸し切ったの?

「…まじで切ったのか」
「あ、ロハンさん。髪ならイゾウさんが切ってくれました」
「いや、まァ…それはいいんだが」

駄目って言われても困るけどな。ご意見は自隊長に言ってくれ。

「変ですか?」
「いや、似合ってるが、…あんまり無茶はすんなよ」
「…そうやって言いふらしてるの誰ですか?」

何でそう、すぐ広まる。誰さ。ぺらぺらぺらぺら喋って回ってるのは。

「お、イズ!ダガーで髪切ったんだって?」
「切ってません」
「本当か?メリオが泣いてたぞ。イゾウ隊長に殺されるってな」
「何でイゾウさんが出てくるんですか…」

お前か、犯人は。そりゃ、用途も言わずに借りちゃって申し訳なかったけどさ。そんな泣くほど?切れ味が落ちるから?大体、メリオさん1番隊じゃなかった?

「イズ、わたしたち温泉に行くけど、どうする?」
「一緒に行く!」

ロハンさんとガザさんと、適当に挨拶を交わして後を追う。温泉、もそうだけど、湯船自体が久しぶり。船じゃなかなか難しいよね。人数も多いし。

エルミーさんから浴衣を受け取って、廊下を歩く。いいなあ、裸足。やっぱり日本家屋好き。

「イズ?どうしたの?」
「…何でもない。んだけど、ちょっとくっついててもいい?」
「大歓迎よ」

リタさんが、手をぎゅっと握ってくれる。怖い。好きなのが怖い。此方にいられなくなったらどうしよう。

背中を流して、流してもらって。でも不安が流れていくわけじゃない。大丈夫大丈夫大丈夫。姉さんたちが一緒なんだから。

「イズ、外行ってみる?」
「露天もあるの?」

リリーさんがに誘われて、木の引き戸を開ける。湯煙と一緒に、恐る恐る足を出した。何が怖いって、扉が怖い。その向こうが、違う場所だったらどうしよう。



***

「あ、イゾウ隊長。お疲れ様です」
「入込じゃねェのか」
「はい?」
「いや、何でもねェ。えらく大人しいな?」
「あァ、それが、…その」
「隣が女湯だから、声が聞こえてくるんすよ」
「しーっ!言うなって!聞こえたらどうすんだよ!」
「お前の声が一番でかいわ!」
「…お前ら、ガキか」




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