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烈火のごとく怒られた。ヤマトで寝落ちして、翌朝起きてから。斯々然々と話しても駄目だった。いくらでも洗ってあげるのにって。そういう問題ではないし、そんなに洗われたら傷む。

「二度と!ダガーなんかで切ろうとしないで頂戴!」
「…ごめんなさい。もうしません」

そんなに怒んなくたって、たかが髪じゃん。そのうち伸びるじゃん。なんて言ったらまた怒られるから言わないけど。

「イズ」
「はい」
「ちゃんと自分のこと、もっと大事にして?」
「…努力はする」

別にやたらめったら触られたりしなければそんなことしないのに。と言うか、自分を大事にした結果なのに。

…で、それで終わらないのが姉さんだ。短くなったら、それはそれでいいらしい。何でわたしは怒られたのか。

「イズ、赤と白、どっちがいい?」
「どっちもいい…」
「あら、そう?じゃあ、どっちも買いましょうか」
「違う!そんなに買ってくれなくて大丈夫だってば!」
「だって自分では買わないでしょう?」
「…買わないけど」
「イズは自分に無頓着だから、その分頓着したいのよ」
「別に普通だってば…」

髪留めに始まり、あれも可愛いこれも可愛いとと言っては、…待って。買おうとしないで。そんなにいっぱいあってもどうにもできないんだってば。服だって持て余してるのに、一体何処に仕舞うのさ。埃被しちゃうくらいなら、他の人に買ってほしい。

「欲しいのがあったら自分で買うから」
「あら、わたしたちの楽しみを奪うつもり?」
「イズが一緒に選んでくれたら、もっと楽しいんだけど」
「…そういうのはずるくない?」
「本当のことだもの」

そう笑って、手に持った品を並べて見せる。…どれかと言ったら真ん中が好きです。

「姉さんたちは何か欲しい物ないの?」
「欲しいもの?…そうね、何かあったかしら」
「…あんまり高いものは無理だけど」
「じゃあ、この後お茶しましょ?イズに訊きたいことがあるの」
「訊きたいこと?」
「ええ。イゾウとは最近どう?とか」
「どうもない」
「ふふ、でもイゾウに言われたんでしょう?」
「どのくらい待たせるつもりなのか、詳しく聞かせて?」
「…どこから仕入れてるの」
「内緒」

そんな、そういうことじゃないんだけどなあ。姉さんが持ってる以上の情報を、わたしが持ってるわけないだろうに。何にも、変わってないのに。



***

「おい、イズルどうした?」
「お姫様なら出掛けたぞ。ナースたちに連れられてな」
「あの馬鹿。何も言わねェで出掛けやがって…」
「それはイゾウがいつまでも寝てるからだろう?イズはいつも通り起きてたぞ」
「うるせェな」
「因みに、今日は宿をとって帰って来ないそうだ。地図は要るか?」
「貰う」
「…同じ国の人間がいるらしいな」
「だから嫌なんだよ」




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