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何とも言えない違和感。既視感と言ってもいい。港に真っ赤な大鳥居があって、そこから一本、太い道が真っ直ぐ上っている。山の麓を拓いたような街。木造の建物。と、石造りの家屋が雑多に並んでいる。軒を開いた雑貨屋に、洒落た扉のご飯屋さん。…いや、似てるだけ。気のせい。気のせいであれ。

「おれの国に似てるな」
「イゾウさんの?」
「所々な」

へえ…。じゃあ気のせいかもしれない。気のせいじゃなくても、此方に似たような文化があるなら大丈夫な気がする。

「イズルの国も、あんな感じじゃねェのか?」
「え、何でですか」
「所作」
「所作?」

イゾウさんが視線をやった先には、暖簾を下げた日本家屋。店前で呼び込みをしているのは、作務衣を着たお姉さん。で、所作がなんだって?

「袂を押さえる癖があんだろ」
「…よく見てますね」

…まあ、癖って程でもないけど。よくそんなの気づいたな。四六時中一緒にいるわけでもないし、ご飯の時間だって大体ずれてるのに。

真っ直ぐ坂を上がって、突き当り。立派な門構えの敷居を跨いだ。宛ら神社さん。鳥居があるならあってもおかしくないけど。つまり今来た道は参道ってことか。
序でとばかりに、まあ、ご挨拶くらいは。神様が助けてくれるなんて思っちゃないけど。

「慣れてるな」
「…わたしの国にも、似たようなのがありましたから」
「へェ?」

手水舎に寄ってから、拝殿の石段を上がる。きれいな神社さんだ。新しくはなさそうだけど、たぶんきれいにしてる。何の神様を祀ってるんだろう。

「何で五ベリーなんだ?」
「ああ、そっか。単位が違うんですね」
「あ?」
「わたしの国だと、お金の単位が円だったから。五円で、こう、えにしの方のご縁っている験担ぎがあるんです」
「却下だ」
「はい?」

却下?そんな他人様の賽銭却下する?大体、単位が違うから成り立たないのに。

「誰と縁を結ぶつもりだ?」
「別にそこまで考えてませんけど」

只の癖。どうせお願い事なんかしないし。挨拶に来ただけだもの。

「五円以外にしろ」
「…じゃあ、115円?」

あっ、しまった。つい。ついだってば。ちょっと言ってみたくなっただけ!よくわかったな。良いご縁。

「イズル」
「…はい」

イゾウさんの指が、首にかかった髪を払った。擽ったい。やってることと表情が一致してない。怖いんだよ、その笑顔。

「…只の験担ぎですってば」

別にそういう縁結びを願うわけじゃないってば。縁てそんな、他にも色々あるでしょうよ。何だ、この人。わたしのこと大好きかよ!

「わかりました。十円にします」
「また何かあるわけじゃねェだろうな」
「ありませんて。十円は只の十円です」

円じゃないけど。適当に投げて二礼二拍。一礼。イゾウさんは横で見ていた。お参りしないんか。

「すみません。付き合わせて」
「構わねェよ。何願ったんだ?」
「願ってないです。挨拶しただけ」
「へェ?」

信用してないな。本当に挨拶しただけだってば。あとは、ちょっとしたお礼。ここの神様は関係ないだろうけど。

「お神籤でも引いてくか?」
「イゾウさん引きます?」
「おれは引かねェ」
「じゃあ、いいです」

拝殿横の階段から降りる。正直、わたしは買い物とかあんまりしないし、本当に見て歩くだけで楽しいタイプ。散歩大好き。だけど、イゾウさんは楽しいんだろうか。だって、本当に歩いてるだけなんだけど。



***

「おい、これに書くと願い事が叶うんだと!」
「何だそりゃ。お前が願い事って玉かよ」
「金銀財宝か?」
「女だろ?」
「違ェよ!おれは、オヤジにいつまでも元気でいてほしいんだよ!」
「…意外といいこと言うな」
「おれも書く!」
「おれも」
「ん?おいおい、お前それは…、ばれたら殺されるぞ」
「何だ?何て書いたんだ?」
「うわ…、おれはお前が死んでも忘れねェからな!」
「勝手に殺すんじゃねェよ!」




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