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「いいか。おれが教えんのは身を守る為のもんだ。間違っても喧嘩なんか売るんじゃねェぞ」
「わたしを何だと思ってるんですか…」
「大人しそうに見えて、意外と血の気が多いからな。揉め事に首突っ込んだりもすんなよ」
「…」
「返事」
「…はあい」

戻ってきた甲板。何やらかちゃかちゃやっていたのを手渡される。決して大きくはない。掌サイズ。それでもそこそこ重い。

「あれに当ててみな」
「あの板ですか?」
「あァ」

いつの間に立てたし。幾つか円が描かれた、所謂、的。人も増えたな。サッチさんもいる。上陸しなよ。見世物じゃないぞ。耳に入ってくるのは兄たちの騒ぐ声。頑張れやら、一発で当てろやら。声援ありがとう。でもどっか行って。目立つの嫌いなんだってば。いつもより少ないって言ったって、こんだけいたら拷問だわ。

何か、かちゃってするような、安全装置みたいなのはない。たぶん引き金を引けば弾が出る。本とかテレビとかの知識だけどね。取り敢えずやってみようか。両手で持ったそれを、目一杯握ってみる。

机を両手で思いっ切り叩いたような音がした。昨日聞いたのよりも軽い音。それでも、板にはきっちり穴が開いている。まあ、こんだけ近ければわたしだって外さないわな。

「当たりましたけど」
「お前実戦でそこまで近づく気か」
「いや、当てろって言うから…」

板の目の前。銃口を板に押し付けて引き金を引いた。そりゃ当たるわ。流石に。

「…っ、あっはははは!イズ才能あるんじゃねェの?」

サッチさんが腹を抱えて蹲った。笑わないでよ。馬鹿にされてんのはわかるぞ。才能がないから近づいたんだもの。
囃し立てる周囲とは反対に、イゾウさんの温度が低い。気がする。だって当てろって、当ててみなって言ったから!

「こっち来い」

イゾウさんの呼ぶ声に駆け寄って、少し距離を置いて立ち止まった。手が届かなそうな距離。だって何か怒ってる。今日ずっと怒ってる。

「イズル」
「いや、だって何か怒ってますよね?」
「怒ってねェ」
「じゃあ、苛々してますよえっ、」

うえっ、何。何怒ってるの。がっ、と顔を掴まれて潰された頬が痛い。

「よく聞け。武器を持つってことは奪われる可能性があるってことだ。わかってんのか。実戦であそこまで近づかれたらお前に勝ち目はないと思え」
「…あい」
「お前に危機管理能力が皆無だってのがよくわかった。きっちり叩き込んでやる」
「…」
「へ、ん、じ」
「ああい」

なくないわ。普通だわ。



***

「おい、いきなり撃たすのか?流れ弾どうすんだよ」
「んなもん当たる奴が悪い」
「おーおー、鬼隊長だなァ…で、イズはどこまで近づくんだ?」
「あの馬鹿…当てりゃいいってもんじゃねェんだぞ」
「イズなりに色々考えてんだろ?」
「その考えた結果が碌でもねェってのはどういうわけだろうなァ?」




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