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今日の16番隊は船番だった。わたしに関して言えば二日も遊ばせてもらったわけだし、全然何でもするけど。何かやることがあるわけではないらしい。兄さんたちは甲板で喧嘩したり、トランプしたりしてる。わたし?わたしはロハンさんと、一番高い見張り台に上がってる。上がってみたいと言ったら一緒に来てくれた。

「ロハンさん、わたし足手纏い?」
「はあ?」

うん。ありがとう。ロハンさんにあっさり頷かれたら、ちょっと堪える。誰に頷かれても堪えるけど。

「できることは少ないし、自分一人だって何とかできる気がしない」
「何だ、昨日の気にしてんのか?」
「…一応。毎回誰かと一緒とも限りませんし」

そもそも一人で動く方が得意だし。毎回助けてもらうのは性に合わない。わたしが誰かを助けられるなんて自惚れちゃいないけどさ。

「お前はもうちょっとゆっくりでいいんじゃねェか?」
「ゆっくりしてたら人生あっという間じゃないですかあ…」
「生き急ぎすぎだろ」

そんなこと言われたって。あと三回、否、五回くらい人生があるならいいけどさ。残り百年もないんだよ。短くない?

「何だ、こんな所にいたのか」
「うあっ、…何ですか」

何笑ってんのさ。いきなり後ろから声かけられたら誰だって吃驚するわ。

「お前らの姿がなかったから、勝手に島に降りたのかと思ったんだよ」
「しませんよ、そんなこと」
「どうだか」

イゾウさんはにやにや笑いながら、見張り台の縁に腰掛ける。信頼ねえな、おい。ちょっとむっとしたぞ。

「所在地確認なら済んだんじゃないですか?」
「ふ…、悪かったって。そうそっぽ向くな」

イゾウさんの手が髪をくっと引っ張る。その反対に首を傾ける。離せや。切り落とすぞ。髪を。

「イゾウ隊長、イズが戦えるようになりたいらしいですよ」
「あ?」
「ロハンさん、すーぐそうやって報告する…」
「すまん」
「あァ、昨日のか」
「…まあ、そうです」
「マルコが褒めてたぞ。いい啖呵だったってな」
「口先だけで勝てるんなら苦労しませんけどね」

そんなん褒めてもらってもね。嬉しいけど。何て言ったか覚えてないし。こう、今一つしっくりこない。

「おれが手伝ってやろうか」
「はい?何をですか?」
「稽古。つけてやるよ」

…イゾウさんが?何か嫌な予感しかしないんだけど。わたしのこと、喋る玩具か何かと勘違いしてない?

「但し、ここから降りられたらな」
「…?降りるくらいできますけど」
「シュラウドはなしだ」
「ちょっ、イゾウ隊長!」
「生半可な覚悟で武器持たせるわけにはいかねェからな」
「…わたしがここから飛び下りたら、十中八九死にますよ?」
「やめるか?」
「…やります」
「おい、イズ!」

なめんな。自由落下くらいわたしにだってできるわ。

「着地はどうでもいいってことですよね」
「あァ、着地できなきゃ死ぬけどな」
「…ガザさーん!」

笑いを含む声を背中に、見張り台から身を乗り出した。甲板にいる筈の兄を呼べば、何だ何だと甲板の下に数人。トランプ中だったかな。ごめんなさい。

「どうしたー!」
「ちょっとそこにいてー!」

立ち上がって、縁に足を掛ける。高い。怖い。心臓の音が聞こえるくらい。

「おい、やめとけ。死ぬ気か」
「自分でやるって言ったんだから、やるに決まってるじゃないですか」

例え売り言葉に買い言葉だって。



***

「何だァ?」
「イズがここにいろってよ」
「おいおい、ロハンのやつ何やってんだよ。あんな格好じゃ落ちるぞ」
「いや、待て。何か様子がおかしくねェか?」
「あいつまさか飛び下りる気じゃ…」
「ガザ!絶対落とすなよ!」
「待て待て待て!おれはサッチ隊長じゃねェぞ!」




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