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別にゾノさんが悪いわけじゃない。寧ろ優しい。親切だ。たぶん一人で歩き回ろうとした私を心配してくれたんだから。それでも恨む。三日くらいは呪う。 今日の目的は服。いつまでもこれだけとか普通に無理。季節がころころ変わるなら尚更。 で、船から降りたらイゾウさんがいた。 「街に行くんだろ?」 「…そうですけど。何してるんですか?」 「あんまり一人で歩き回らない方がいい。どんな奴がいるか、わかったもんじゃねェからな」 はあ…?いや、わかるよ?見知らぬ土地を一人でうろうろするなとか?わかるけどそれ幾つの話よ。わたし小学生じゃないんだけど。一応方向音痴でもないんだけど。 たぶん、そう思ってたのが顔に出てたらしい。イゾウさんはわたしの頭を撫でて誤魔化した。いや、誤魔化されないから!羽織ありがとうございます。あるのとないのじゃ全然違う。 目的の服屋に着いたらどっか行くんだと思っていたら、一緒に店に入って来た。この人洋服とか着るの?それはそれで見てみたいけど。 残念ながら、というか、此方じゃレディースなんて名ばかり。全体的にでかい。いや、サイズの大きい服好きよ?ゆるっとしてるの。楽だし。上はそれでもどうにかなるけど、ボトムスはさあ…ちょっと?大分?丈長いよね。恐ろしいことにウエストは大丈夫そうだけど。何食ってんの?夜露?流石に子供服は…あ、でもサイズ的にはこっちのが着れる。悲しい。 「…イゾウさん何やってるんですか」 「んー?」 ん―、じゃなくて。何で女物見てんのさ。着れないでしょ。…それか、あれか。贈り物?ちょっと野暮だったかな。 「イズル、こっち来い」 「はい」 「これ着てみろ」 「はい?」 「あとこれ。と、これは流石に小せェな」 次から次へと、わたしの腕に服が積もっていく。流石冬島。雪のようだ。重たい。 「え、何ですか。嫌ですよ。嫌です!わたしこんな可愛らしいの着ません!」 「いいから着てこい」 「嫌ですってば!」 「隊長命令」 「そういうのパワハラって言うんですよ!」 「海賊に倫理を説くなってマルコにも言われたろ?」 「倫理なんかわたしが持ってるわけないでしょ!嫌ですってば!」 「なら着せてやるよ」 「いっ、やだやだやだ、もっとやだ!」 「なら大人しく着てきな」 「…横暴が過ぎるんじゃないですか」 「あいつらは文句言わねェけどな」 いやそれたぶん別の要因。上司として尊敬してたりするんだろうとは思うけど。着てこい着てこいって、これ何着あるのさ。人形遊びだってこんなに着ないわ。 追い立てられるように入った試着室で、取り敢えず着てみる。なんて従順。素敵な部下をお持ちですね。散々文句を言っといて申し訳ないけど、意外と好みの服もある。絶対着ない服もあるけど。何が怖いってサイズが合ってるのが怖い。意味わからん。そしてちょっと気持ち悪い。 「どうだ?」 「…っ何で開けるんですか馬鹿じゃないの!?」 「何だ、途中じゃねェのか」 ふざけんな!セクハラだわ訴えるぞこの野郎! カーテンを勢いよく閉め返すと、向こうから楽しそうな笑い声が聞こえた。わたしは楽しくない。 「…疲れた」 「お疲れさん」 誰のせいだと。他人事じゃねえぞ。 気に入った服を幾つか持って会計に出す。序でに着散らかした服を謝った。だって、あれ片すとか無理。そもそもどこにあったのかよく知らない。 「そんだけか?」 「わたしがそんなに沢山買えるわけないじゃないですか」 「あァ、金は気にすんな。おれが払う」 「は?いやいいです。結構です。自分で買います」 「乗船祝いだ」 「だからってそんなに要りません!わたしの体が二つも三つもあるわけじゃないんですよ!?」 「…っはは、面白ェこと言うなァ」 「お姉さん!お会計こっちで!」 「いい、あれ全部くれ」 「だから着ませんから!着ないってば!」 「イズル」 うわ、鳥肌立った。それ苦手。なんか声が出てこなくなる。イゾウさんは押し黙ったわたしを見て満足気に笑った。無理。これやばいな。非常にまずいな? 「いい子だから大人しくしてな?」 「…馬鹿にしてんですか」 頭撫でんな。十かそこらの子供じゃねえぞ。 「…ありがとうございます」 「不服そうだな?」 「不服です」 買ってもらって、持ってもらって、帰路につく。全部やってもらって、こんなに貰ってもわたしは返せない。 「次は着たとこ見せてくれよ?」 「そのうち見られるんじゃないですかねー」 そんな憎まれ口も笑って許してくれる。甘えすぎている。そんでもって、甘やかしすぎている。 *** 「イズ、一人で上陸しようとしたんだって?」 「あァ、させてねェけどな」 「ゾノが心配してたぞ?そのうち人攫いにでも遭うんじゃねェかって」 「有り得ないと言えねェのが辛いとこだな」 「笑ってる場合かよ。ちゃんと教えてやれって、隊長さんよォ」 「あれは口で言っても聞かねェよ」 「いや、聞かせろ。何かあってからじゃ遅いんだぞ」 |
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