17


別にゾノさんが悪いわけじゃない。寧ろ優しい。親切だ。たぶん一人で歩き回ろうとした私を心配してくれたんだから。それでも恨む。三日くらいは呪う。

今日の目的は服。いつまでもこれだけとか普通に無理。季節がころころ変わるなら尚更。
で、船から降りたらイゾウさんがいた。

「街に行くんだろ?」
「…そうですけど。何してるんですか?」
「あんまり一人で歩き回らない方がいい。どんな奴がいるか、わかったもんじゃねェからな」

はあ…?いや、わかるよ?見知らぬ土地を一人でうろうろするなとか?わかるけどそれ幾つの話よ。わたし小学生じゃないんだけど。一応方向音痴でもないんだけど。
たぶん、そう思ってたのが顔に出てたらしい。イゾウさんはわたしの頭を撫でて誤魔化した。いや、誤魔化されないから!羽織ありがとうございます。あるのとないのじゃ全然違う。

目的の服屋に着いたらどっか行くんだと思っていたら、一緒に店に入って来た。この人洋服とか着るの?それはそれで見てみたいけど。
残念ながら、というか、此方じゃレディースなんて名ばかり。全体的にでかい。いや、サイズの大きい服好きよ?ゆるっとしてるの。楽だし。上はそれでもどうにかなるけど、ボトムスはさあ…ちょっと?大分?丈長いよね。恐ろしいことにウエストは大丈夫そうだけど。何食ってんの?夜露?流石に子供服は…あ、でもサイズ的にはこっちのが着れる。悲しい。

「…イゾウさん何やってるんですか」
「んー?」

ん―、じゃなくて。何で女物見てんのさ。着れないでしょ。…それか、あれか。贈り物?ちょっと野暮だったかな。

「イズル、こっち来い」
「はい」
「これ着てみろ」
「はい?」
「あとこれ。と、これは流石に小せェな」

次から次へと、わたしの腕に服が積もっていく。流石冬島。雪のようだ。重たい。

「え、何ですか。嫌ですよ。嫌です!わたしこんな可愛らしいの着ません!」
「いいから着てこい」
「嫌ですってば!」
「隊長命令」
「そういうのパワハラって言うんですよ!」
「海賊に倫理を説くなってマルコにも言われたろ?」
「倫理なんかわたしが持ってるわけないでしょ!嫌ですってば!」
「なら着せてやるよ」
「いっ、やだやだやだ、もっとやだ!」
「なら大人しく着てきな」
「…横暴が過ぎるんじゃないですか」
「あいつらは文句言わねェけどな」

いやそれたぶん別の要因。上司として尊敬してたりするんだろうとは思うけど。着てこい着てこいって、これ何着あるのさ。人形遊びだってこんなに着ないわ。

追い立てられるように入った試着室で、取り敢えず着てみる。なんて従順。素敵な部下をお持ちですね。散々文句を言っといて申し訳ないけど、意外と好みの服もある。絶対着ない服もあるけど。何が怖いってサイズが合ってるのが怖い。意味わからん。そしてちょっと気持ち悪い。

「どうだ?」
「…っ何で開けるんですか馬鹿じゃないの!?」
「何だ、途中じゃねェのか」

ふざけんな!セクハラだわ訴えるぞこの野郎!
カーテンを勢いよく閉め返すと、向こうから楽しそうな笑い声が聞こえた。わたしは楽しくない。

「…疲れた」
「お疲れさん」

誰のせいだと。他人事じゃねえぞ。
気に入った服を幾つか持って会計に出す。序でに着散らかした服を謝った。だって、あれ片すとか無理。そもそもどこにあったのかよく知らない。

「そんだけか?」
「わたしがそんなに沢山買えるわけないじゃないですか」
「あァ、金は気にすんな。おれが払う」
「は?いやいいです。結構です。自分で買います」
「乗船祝いだ」
「だからってそんなに要りません!わたしの体が二つも三つもあるわけじゃないんですよ!?」
「…っはは、面白ェこと言うなァ」
「お姉さん!お会計こっちで!」
「いい、あれ全部くれ」
「だから着ませんから!着ないってば!」
「イズル」

うわ、鳥肌立った。それ苦手。なんか声が出てこなくなる。イゾウさんは押し黙ったわたしを見て満足気に笑った。無理。これやばいな。非常にまずいな?

「いい子だから大人しくしてな?」
「…馬鹿にしてんですか」

頭撫でんな。十かそこらの子供じゃねえぞ。

「…ありがとうございます」
「不服そうだな?」
「不服です」

買ってもらって、持ってもらって、帰路につく。全部やってもらって、こんなに貰ってもわたしは返せない。

「次は着たとこ見せてくれよ?」
「そのうち見られるんじゃないですかねー」

そんな憎まれ口も笑って許してくれる。甘えすぎている。そんでもって、甘やかしすぎている。



***

「イズ、一人で上陸しようとしたんだって?」
「あァ、させてねェけどな」
「ゾノが心配してたぞ?そのうち人攫いにでも遭うんじゃねェかって」
「有り得ないと言えねェのが辛いとこだな」
「笑ってる場合かよ。ちゃんと教えてやれって、隊長さんよォ」
「あれは口で言っても聞かねェよ」
「いや、聞かせろ。何かあってからじゃ遅いんだぞ」




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