16


大きな島らしい。比較対象が一つしかないからよくわからないけど。確かに前の島よりはずっと大きい。薄ら雪化粧した様とてもきれいだ。折角なら真っ赤な椿とか、山茶花とか咲いててほしい。

「冷えるぞ」

そう言って、イゾウさんはわたしに羽織をかけた。わたしの服は精々春秋物。雪の降る季節には、正直寒い。寒いけど。これ、誰の?イゾウさんのなら、ほぼ確実に引きずると思うんだけど。

「…大丈夫です。お構いなく」
「イズル、悪かった。許してくれ」
「嫌です。当分は根に持ちますから!」

笑ってんの見れば、楽しんでんのもわかるんだからな。
イゾウさんから逃げて、手すりに寄り掛かるエースさんの隣に潜り込む。ロハンさんはね。わたしのこと引き渡すから。許さん。…温いな、この人。でも服は着なよ。

「イズ?どうした?
「イゾウさんから逃げてきました」
「何だ、また喧嘩してんのか?」
「喧嘩というか…」

わかってる。わたしはたぶん、また甘えている。イゾウさんが愛想を尽かさないと高を括っている。そんな保証はどこにもないのにね。…随分幼くなったな?

「ほら、そんな顔すんなら仲直りしちまえって」
「別に喧嘩してません」

エースさんはわたしの頭を撫でて、帆を畳みに行った。イゾウさんとは違う。髪がぐっしゃぐしゃになる。それを直して、羽織に袖を通した。

停泊準備をする兄たちを眺めて、自分のできそうなことを探してみたりする。できないことばっかりだなあって思ったから。まあ、眺めてても、できることねえなって思うんだけどさ。力仕事は向いてない。精々邪魔にならないようにしてるくらいしかできない。…本当に何にもできないんだなあ。

「何見てんだ?」
「…働いてる兄たち?ですかね?わたしはできることが少ないから、どうしたもんかと思っているところです」

手が空いたのか、ゾノさんが隣にやってきた。給料ね。ちゃんと貰ったから。退職金込みで。ありがとうございます。

「そんなに焦らなくても、ちゃんと助かってると思うが」
「まるっきりの役立たずではないと思いますけど…」

やれることしかできない。できないこともできるようになりたい。けど、物理的にできないことが多すぎる。背丈とか、筋力とか。2、3番隊の書類手伝いに行こうかなあ…。

「ゾノさんは4番隊?でしたっけ?」
「ああ、古巣に戻ったって感じだな」
「楽しそうですねえ」
「イズルは?16番隊になったんじゃなかったか?」
「…お耳が早いことで」

本当に、残念ながら。わたしの切実な思いは届かなかったわけだ。苦手なんだってば。こう、掌の上で転がされてる感じが気に食わん。

マストの上から兄たちが降りてきて、次から次へと上陸していく。わたしも行こう。冬だって言うなら、日が落ちるのも早いかもしれない。

「じゃあ、わたし買うものあるんで」
「おう。…待て、一人で行く気か」
「…?はい」
「それはやめろ。イゾウ隊長はどうした」
「さあ…?さっきまではその辺にいましたけど」
「おれは今日行けねェからな…ちょっと待ってろ」
「はい?」

そんなに?前の島は一人で上陸しましたけど?



***

「あ、イゾウ隊長、イズルが一人で上陸しようとしてますけど」
「あァ、知ってる」
「いいんですか?」
「知ってるから待ってんだよ」
「声かけてやったらいいじゃないですか」
「そんなことしたら逃げちまうからなァ」
「…程々にしてやってくださいよ」
「あれで甘えてんだよ。本人もわかってる」




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