206


「じき…?」
「磁気。物と物が引っ張り合う、…まあ、不思議な力?」

はあ。それは知ってるけど。場所は自室。わたしとイゾウさんと、リノン。扉が蹴破られて飛び起きたらいた。真夜中。イゾウさんはたぶんその前に起きてた。

「…明日でいいだろ」
「でね、通常グランドラインでは島の持つ磁気を記録して、次の島に向かうわけ。普通の海とは違う磁場が形成されてるってことなんだけど、」
「おい」
「イゾウ隊長うるさい。で、で、このマグポースはまた別の磁気に反応してんの。グランドラインっていう特殊な磁場の中に、また別の磁場があるんだよ!」

ああ、うん。…うん?頭働かないんだが…?磁場が何だって…?目の前に差し出された指針はそっぽを向いて止まっている。…むかつくな。何か。不愉快だ。

「それ明日じゃ駄目…?」
「駄目!おれが今喋りたい!」

うわあ。いや、わかるけど。気持ちはわかるけど。
のそのそと上掛けから這い出た。このままじゃ寝る。髪が動く気配がするから、イゾウさんが直してくれてるのかもしれない。いいのに。また寝るんだから。でも話を聞いた後眠れるんだろうか。目が冴えてそうな気がするんだが。

「…もっかい最初から言って」
「だから、ログポースは島の磁気を記録して、島と島が引き合ってるのを可視化してるわけでしょ?このマグポースは島と別のものが引き合ってるのを可視化してるわけ。例えばイズとか。あとルーカとか」
「そのマグポースのマグって何…?」
「マグネットのマグだって。そんなことはどうでもいいんだよ」

がっ、と両肩に手が置かれた。夜中にも拘わらず目を爛々とさせて、…充血してない?実は徹夜してる?してそう。

「文字通り、イズが指針なんだよ!たぶんあの時あの島に行ったのも偶然じゃない。イズがいたから島に引き寄せられた若しくは島が引き寄せられたんだよ!すごくない?ちょっとイズの体調べさせでっ、」

わたしを大きく揺さぶりながら早口でまくし立てるリノンをイゾウさんが殴った。わたしの頭越しに。何か掠った気がする目が覚めた。扉まで吹っ飛んだリノンが背中を打ち付けて顔を上げる。ぽたり、と鼻血が垂れた。

「却下に決まってんだろ」
「だからって殴ることなくない!?」
「うるせェな。大体夜中に来んじゃねェよ」
「あっそう。へー。そういうこと言っていいの?」
「あァ?」
「イズ、いいこと教えてあげる。スマホ貸して」
「あ?…おい待て」

何だ。何か。机に放っていたスマホに手を伸ばした。それを後ろから追ってきた手がかっさらう。何か、面白そうな気配がする。

「イゾウさん?」
「何でもねェよ」
「何でもないなら返してください」
「…何でもなくねェから返さねェ」
「人のスマホで何やったんですか」
「何でもねェ」
「何でもなくないでしょう」

抜け出す前にしっかり抱え込まれた。手を伸ばすにも立ち上がるにも難しい。と言うより身動きが取れない。本当に。本当に何したの。特に不具合はないと思ったけど。

「イズは隠しファイルの開け方知ってる?」
「隠しファイル?」
「おい、リノン!」
「何かこういう、ファイルって書いてある…」
「ちょっとイゾウさん!聞こえないんですけど!」

遠退いたリノンの声に対して、自分の声がやたらと大きい。今隠したって後で聞きに行ったら関係ないのに。肝心な所は聞いちゃったし。態々わたしの耳を塞いでも。ねえ?…あ、脈の音がする。



***

「てめェ、話が違ェだろ」
「だってイゾウ隊長が殴った」
「…あァ、悪かった。謝ってやるからイズルにばらすな」
「えー、どうしようかなあ。偉そうじゃない?これ謝罪に数えられる?やっぱちゃんと頭下げてもらわないと、」
「あんまりふざけたこと抜かしてるともう一発殴るぞ」




prev / next

戻る