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波を掻き分ける音。暫くもすれば、また嵐の中だろう。滝の探検もできないまま、船は出航していた。心残りだが仕方ない。そもそもわたしの都合でわたしの所為だ。わたしの所為なんだけど、やっぱり残念。

「どうした?」
「いえ、あの滝の上はどうなってたのかなあ、と思いまして」
「…戻るか?」
「戻りません」

風の抜ける甲板。イゾウさんが隣で笑う。こんなに穏やかなのに、この先を思うと少し気が沈む。わざわざ面倒事に首を突っ込もうとしてるんだから、兄さんにも姉さんにも弟妹にも。謗られたって反論はできない。のに。

「ちょっ、お前ら!おれを殺す気か!?」
「サッチ隊長が言ったんすよ!ドフラミンゴを相手にしたつもりでって!」
「言ったけどよ!」
「お前らしっかりやれー!」
「詰めが甘ェぞ!」

賑やかに剣を打ち合う4番隊を肴に、酒を飲んでいた兄さんが笑いながら野次を飛ばした。束になって向かってくる隊員を片手一本であしらうサッチさんはまだまだ余裕そうだけど。ドフラミンゴに仕掛けんなら気合い入れねェとな!なんて。どいつもこいつも優しくて困る。

イゾウさんに言われるがまま、父さんに相談した。ドフラミンゴに持ってかれるのも、海軍に持ってかれるのも嫌。だからって、わたしがどうにかできるわけがない。

「だから、…その、何かいい方法があったりしない…?」
「…一つ、ねェこともねェなァ」
「えっ、何?」

ぱっ、と声を上げたら、父さんは何とも言えない苦笑いを浮かべていた。父さんの隣にいた姉さんたちは呆れ気味で、わたしがとんでもない愚か者とでも言いたげに。…いや、だって。だってそれは、最終手段じゃない?

「本当にしょうがない子ね」
「わかってても、わかってなくてもどっちもどっちね」
「イゾウ隊長は何をしてるのかしら」
「教育が足りてなくて悪ィな」
「全くだわ。海より深く反省して頂戴」

…どうも、覚えの悪い妹で大変申し訳ございません。渇いた喉を叱咤して唾を飲む。背丈の二倍以上の高さにある双眸と合わせて、外れて、もう一回合わせて、斜め下にずれた。気まずい。

「…ど、どうにかしてください」
「グララララ…あァ、可愛い娘の頼みじゃァ断れねェなァ」
「…」
「イズル。お前ェはもっと頼ることを覚えろ」
「…いっぱい頼ってる」
「肝心な時に頼られねェんじゃ意味がねェ。おれたちはそんなに頼りねェか?」
「そうじゃない、けど」
「なら、もっと頼ってやんな。おれも、おれの家族も、お前ェ一人の我儘で潰れるほど柔じゃねェ。大事にされんのもお前ェの仕事だ」
「……努力はする」

ぽす、と頭に乗った重さに視線だけで隣を見る。頼ること。甘えること。お願いすること。誰かから何かを貰うのはこんなに難しい。

件の指針はリノンが解体に勤しんでいる。普通のログポースに対して何処を指しているのか。今はそれを頼りに船を進めている。あんなにごねるリノンもなかなか…見たことなかったな。マルコさんが折れたくらいだもんな。

「…イゾウさんも怒ってます?」
「ん?」
「わたしが、あんまり頼らない?から?」
「ふ…っ、随分堪えてんなァ」
「何で笑うんですか」
「いや?落ち込んでるイズルも可愛いと思ってな」

どうして頼ってくれないのかしら、いつだってわたしたちはイズの味方なのに、まだまだ信用して貰えてないのね、わたしたちの伝え方が悪いのかしら、それとも努力が足りないのかしら、助け合ってこそ家族なのに、イズにとってわたしたちは、ああ、別に怒ってるわけじゃないのよ、とっても悲しいだけ。

思い返したら罪悪感でしくしくしてきた。確かに怒るより余っ程効果的だけども。
信用してる。家族だと思ってる。そう言ったら、じゃあ、態度で示して頂戴、だって。結局怒ってるじゃん。

「茶化さないでください」
「茶化してねェよ」

膝を抱えて丸くなった体が抱き寄せられた頭につられて傾く。前髪で遊ぶ指が擽ったい。肩口に向かって顔を背けたら、頭を軽く叩かれた。別に落ち込んでない。ただ、何か、姉さんを悲しませたことが悲しい。

「怒っちゃいねェさ。ただ、イズルがおれたちに何かしたいと思うのと同じくらい、おれたちもイズルに何かしたいんだよ」
「…それリタさんたちにも言われました」
「イズルだって、ミシャナが似たようなことしたら言うだろ」
「…」
 言うかもしれませんけど。そもそも想像できないけど。



***

「だから、こいつがねェと航海のしようがねェだろい!」
「いいじゃんちょっとだけ!ほんのちょっと借りるだけだってば!」
「てめェのちょっとがちょっとで済んだ試しがあるか!そもそもこいつをぶっ壊したら身動き取れなくなんだよい!いいから返せ!」
「元々マルコ隊長の物じゃないでしょ!どうせなら解体して再現して信頼できるものがあった方がいいじゃん!」
「解体して元に戻せんのかよい!再現できる確証は!」
「たぶん大丈夫だから!」
「たぶんで許可できるか!」




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