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マルコさんに呼び出された。何かしたっけか、と内心どきどきしてたんだけど、何かやらかしたわけではなかった。良かった。 「お前、どこの隊がいい?」 はあ?と首をかしげると、そこは流石にきちんと説明してくれた。曰く、全員がどこぞかの隊に振り分けられてるから、わたしもどっかに振り分けたいと。…まあ、確かに。姉さんたちと一緒は無理だ。医療の心得なんか保健体育くらいしかない。 「どこと言われても、たぶんどこに行ってもできることが限られるのであんまり変わらないかと…」 「だから困ってんだよい」 成程。どこでもいいというか、どこにもよくないからどこにも入れられないと。すっごくよくわかるけど、それなら何をもってわたしに選べと? 「ああ、でも、料理はあんまりお役に立てないでしょうから、4番隊は無理ですかね」 「サッチは欲しがってたよい」 「味見要員ですか?」 「知らねェ」 何だそれ。光栄だけど、絶対要らない。 「ラクヨウさんとは、…仲直りはしましたけど、たぶんまた喧嘩はします」 「まァ、反りは合わなそうだが…ラクヨウはお前のこと気に入ってるよい」 「え、何で?」 「おれに訊くな」 いや、あれ以降お喋りはするけれども。わたし相当塩…というか唐辛子対応だけど。 「エースさん、ジョズさんのところは力仕事が多そうなので、殆どお役に立てそうにありません」 「あいつら字ィ汚ェから、イズルが在庫の書類とかやってくれたら助かるよい」 「つまりは書類以外じゃ役に立たにわけですね」 んー、あとは?雑用しかしてないから、何を主にしてるのか知らないところも多いんだよなあ。まさか雑用が主ってことはあるまい。 「うちはどうだ?」 「うち?」 …ああ、1番隊。あんまり関わったことないなあ。いっつも指示出してたりする印象はあるけど。 「…私には荷が重いかと」 「そうか?残念だよい」 思ってねえだろ。 できそうにないことはぽんぽん思いつくのに、できることって本当にないなあ。わたしにできることって何だろう。 「イゾウんとこはどうだ?」 「……できれば、避けたい。です」 「へェ、どうした?ロハンとも仲良いだろい?」 「…黙秘します」 「ならイゾウに言っとくよい」 「えっ、何を言うんですか?」 「イズルがイゾウんとこは嫌だってな」 …にやにやしよって。言えってか。言えってか! 実はでも何でもないけど、あの人苦手。ラクヨウさんとは別で。まあ、元々接点は少ないから避けたりしてるわけじゃないけど。 「…ご自由にどうぞ」 「あァ、ならイゾウんとこだな」 「は?何で?ですか?」 聞くだけ聞いて無視ですか。それ有り?無しじゃない?大分無しじゃない? 「イゾウんとこだけ、ちゃんとした理由がなかったからねい」 「隊なら他にもあるじゃないですか」 「他んとこは接点もなくてよくわかんねェ隊だろい。流石にそこに振り分けるほど鬼じゃねェ」 「…嫌だって言ってるとこには振り分けるのに?」 言ってることはご尤もだけど。いや、でもだからってさあ…納得いかない。 「そんなに嫌か?」 「嫌というか…」 嫌というか。何か嫌だ。何かこう…甘やかし上手なんだ。こないだの酒の席のもそうだし。いや、あれは結局寝落ちたんだけど。何て言おう。どうしよう。 「ちょっと今何て言おうか考えてるんで待ってください」 「あァ、ゆっくりでいいぞ」 「よい」 「はい?」 何か今一人多くなかったか。びっくりして振り返ったら、そこにその人がいた。マルコさんを見れば素知らぬ顔で、何か書き物を始める。いるの知ってて訊いたな。いじめか。嫌がらせか! 「マルコさんそういうの良くないと思います」 「海賊に倫理を説くなよい」 「じゃあ言い方を変えます。わたしそれ嫌で、」 「イズル」 頭に手を置かれて、低い声が聞こえた。待って待って待って怒ってる?え、そんな、こんなことで怒る?何笑ってんだよ鳥野郎! 「なァ、教えてくれよ。おれの何が嫌だって?」 ゆっくり頭を撫でる手が、やたらと優しいから余計に怖い。いっそ殴られたりでもすればやり返す気にもなるのに。いや、たぶん死ぬけど。そうじゃなくて。そうじゃなくて、何だっけ。何の話だっけ。ゆっくりでいいんじゃなかったっけ。 「くっ…あっはっはっは、」 「イゾウ、あんまり苛めてやんなよい」 …え?は?何笑ってんの?怖い怖い怖い。何、え、グルですか。あんまりじゃないか。 気が抜けたら、力も抜けた。言葉を変えればへたり込んだ。別に腰が抜けたとかじゃないけど。イゾウさんは一緒にしゃがんで、まだ私の頭を撫でている。やめろ。乱暴にすんな。 「…マルコさん」 「何だよい?」 「こういうところが嫌です」 「…だそうだが?」 「悪かった。あんまりにも可愛かったんでつい、な?」 ついじゃねえよ、ふざけんなよ!何笑いながら謝ってんのさ、お前もだ鳥野郎!嫌だ。16番隊だけは絶、対、嫌だ! *** 「ちょっとイゾウ。イズが虐められたって言ってるんだけど?」 「あァ、あんまりにも可愛くてな」 「可愛いのはわかるけど、程々にして頂戴。マルコもよ!何知らないふりしてるの!」 「おれは何もしてねェ」 「ええ、何もしてあげなかったそうね?」 「…イイ顔してたんだよい」 「はあ?」 「へェ?」 |
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