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どうしてこうなった。…と言いたいのは、わたしよりも目の前の御仁に違いない。何さんだったかなあ。名前がさっぱり出てこない。

「マチは元気ですか?」
「…勿論。島の安全には死力を尽くしている」
「死力を尽くした結果出てきちゃったら意味なくないですか?お兄さん一人分戦力が減るわけでしょう」
「おに…っ、」
「今は代わりの部隊が守ってくれている」

あっそう。知らんけど。そんな見ず知らずの人間を信用なんかしませんけど。…と言うか、こんなとこまで何しに来たわけ?戦闘でもなく、直接接触ってOKなの?駄目じゃないの?

「それで、ご自分の職務を放棄してまでどのようなご用件ですか?」
「貴様!」
「止めろ!我々の任務はここで一戦を交えることではない!」

甲板のど真ん中。居心地悪そうに仁王立ちする海兵が二人。ぎらぎらしながら取り囲む兄弟と、後ろに父さん。隣にイゾウさん。目立つの嫌いなんだけどなあ。こんな予定はなかった。
わたしは大人しくお留守番をしていて、何にも起こり得ない筈だった。…いや、身の安全の為にってわけでもないけど。単純に筋肉痛だったから。動くのがちょっとしんどかったから。船番は3番隊。ジオンは二日酔いに呻きながら素振りをしていた。やたらと長閑で、ゆっくりした時間だった。

そこにやって来た一隻の軍艦。…から送り出された小舟が一艘。罰ゲームかと思った。ちょっと気の毒になった。けど空気を読め。今じゃない。

「一戦になればいいけどな」
「それを言っちゃうと話が進まなくなるのでやめてください」

お兄さんの隣にいるお兄さん…お兄さんその二が殺気立っている。堪えたのは上司がいるからだろう。こんな敵地で得物を抜こうとできるのもすごいと思う。

「イズルくん、と言ったな。君の力を借りたい」
「はあ…?」
「断る」
「待って待って待って!まだ何も聞いてないじゃないですか!」
「…まだ撃ってねェ」
「撃つ気だったでしょ」

一瞬こっちを向いて、視線はまた海兵たちへと戻った。真っ直ぐ、撃ち抜いた後の風穴でも見るような。銃を下ろすつもりはないはらしい。…まあ、いいっちゃいいんだけどさあ。

「明確かつ簡潔に、包み隠さずご説明いただけます?」

緊張した面持ちで、一つ頷いたのを見て腰を下ろした。疲れた。脚痛い。

要約するとこうだ。ドフラミンゴがとある島を手中に収めようとしている。阻止したいが、その島に行く為の手立てがない。だからわたしに手伝ってくれと、…正直何のこっちゃと思うんだが。

「手立てがないって、ログポースはどうしたんですか?」
「ログポースでは辿り着けない。…らしい。どうも、ここではないどこかと言うのが関係しているらしいんだが…」
「現実逃避ですか?」
「…いや、我々にも詳しいことは聞かされていない。ただ、君がいれば辿り着けると、そう聞いている」

…何のこっちゃ。本当にわけわからんな。ここではないどこか。グランドラインもワンピースもないよく知ってる場所の話だろうか。だとしたら。
そういう扱いになってるんだへえー。という気持ち。認知されていることにも驚くけど、だからと言ってどうとも思わない。それと関連しそうな島なら一つ思い浮かぶけども。普通に皆で行ったぞ。わたしが何かしたわけじゃない。

「心当たりあります?」
「…ないこともねェな」
「えっ、何それ聞いてない」
「言ってねェからな」

ぱっ、と周囲を見渡したら、目があったマルコさんが肩を竦めた。他の兄さんも心当たりがありそうな反応と、そうでもなさそうな人と忘れてそうな人と。話を盗み聞くに、やっぱりあの、桜の見事な島のことらしい。明らか異質だったもんね。ルーカもいたし。…ルーカもいたじゃん。

「そのふわっふわの説明を信じるとしたら、ルーカでも行けるんじゃないですか?」
「ルーカ?あの時一緒にいた少年か?」
「おれだよ。…でも、イズルがいない間にあの島に寄ったことなんてなかったけど?」
「わたしだって、ベイさんのとこにいた時は島影すら見てませんよ」
「待ってくれ。君は、君たちは一体何なんだ?」

…何なんだと言われても。そのここではないどこか出身のひ弱な人間だけど。



***

「あの島か。懐かしいな」
「あァ、おれたちには忘れらんない島だよな」
「何だ?何かあったのか?」
「イズとイゾウ隊長がくっついた島なんだよ」
「つっても、その後も随分ごたごたしてたけどな」
「あ、おれあん時の願い事叶ったわ」
「そう言やァ何か書いたな」
「おう!イゾウ隊長とイズが早くくっつきますようにってな!」
「…お前、よく無事だったな」




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