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とんとんとん、とノックを三つ。中からひいっ、と声がした。見つけた見つけた。やーっと見つけた。随分と時間が経ってしまったけれど、それはまあいいや。だってお互いに覚えてる。

目の前にあるのは、エースさんの部屋。まさか余所の部屋に逃げ込んでるとは思わなかった。教えてくれたのは部屋の主。ちょっとうんざりしてるみたいだった。

「お久しぶりです、ラクヨウさん。いらっしゃるのは知ってるんです。お話がしたいだけなので宜しいでしょうか?」

返答はなかったから扉を開けた。ほら、駄目なら駄目って言わなくちゃ。

「くっそ、エースのやつ…」
「エースさん困ってましたよ?」
「ああ、もう、悪かった!悪かったよ!余計なこと言っちまってさ!」
「別にそういう謝罪が聞きたいわけじゃありません」
「じゃあ何だよ!散々探し回ってよォ!」

…何か、謝る気失せるなあ。悪い人じゃないんだろうけど。

「わたしが、謝りたかっただけです。物言いが悪くて、たぶん嫌な思いをさせたでしょうから」

ごめんなさい、と頭を下げて部屋の扉を閉めた。謝罪は自己満足。これでわたしは、わたしが悪いことをしたということを忘れてしまえる。言葉にして、相手に伝えるというのはそういうことだ。伝わるに越したことはないけど、伝わらなくても意味はある。

「イズ!」

突然の大声にびっくりした。振り返れば、エースさんの部屋から出てきたラクヨウさんが頭を下げている。

「悪かった!おれも、お前に嫌な思いさせた!すまねェ!」
「…大丈夫ですよー」

笑って答えれば、ラクヨウさんは困ったような顔を上げた。

「また飲みましょうね」
「…おう!」

社交辞令だけどな!



***

「まだおれの部屋にいんのかよ…」
「あいつやべェな」
「はあ?」
「イズ。あいついい女だな」
「何の話だ?」
「いや、本当に。女はやっぱ見た目じゃねェな」
「…ラクヨウ。お前、今度はイゾウに追い回されたいのか?」




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